ママ、魔神と戦ってみる

『……ガァァァァァァァッッ!!!!!』


 邪神が獣のような叫び声をあげ、腐敗の液体を撒き散らす。

 こいつ、結構うるさいな。とりあえず結界の強度を上げ、防音性能を高めておく。

 残る首はあと二本。再生を始めた傷口は炎魔法で大炎上。あとは——


『死ねぃっ!!』

「よっと」


 邪神の放った腐敗魔法を避け、去り際に光の刃で三度ほど切り付ける。

 皮膚は簡単に切れるけど、やっぱり中身は硬いね。筋肉が引き締まっている。

 ……邪神って、食べられるのかな?

 飛んできた棘を魔法障壁で防ぎ、魔法障壁すら融解させる腐敗魔法は避ける。


「こっちこっち〜」

『小癪な……ぬぁっ!!!』


 邪神の体が膨らみ、全身から高濃度の腐敗の霧が噴き出してくる。

 風魔法で霧を操作して……いや、無理か。

 

『我が力は魔法そのものを腐敗させる。我の首をどう切り落としたかは知らぬが、貴様の戦い方は魔法主体なのは分かっている。ならば、魔法を封じれば勝利も同然——』

「いや、別に素手でも戦えるわよ?ただ、殴ると周りが汚れて掃除が面倒なのよ」


 何かが切れる音が聞こえた。

 直後、魔神の姿が消え、私の体の半分が地面に埋まっていた。

 頭に重い衝撃。外れそうになった骨を外側から支え、綺麗に半分埋まるように調整。

 顔を真っ赤にした二つ首の龍が私の前に降り立つ。


『貴様……我を死体か何かと思っておらぬか?』

「違うの?」

『違うわっ!!』


 私の細い腕に大きな口が齧り付き、腐敗の吐息が漏れ出す。

 全身に纏っていた防御魔法が破壊され、両腕に太い牙が突き刺さった。うっ……。

 私が汚いものに噛み付かれた事実に顔を歪ませると、邪神の顔が愉悦に浸る。


『我は邪神レイヴェスト。崩壊と腐敗を司る神であるっ!!たった一度不意打ちを当てた程度で調子に乗るなよ?』

「……ちょ、顔が近い……」


 焼き尽くしたはずの傷口が蠢き、焦げた傷口が再生。そのまま勢いよく胴に噛み付かれた。

 骨と内臓が圧迫され、体の至る所から血が噴き出す。ちょっと痛い。

 耐久性のテストはここまでかな。


『クックック……どこまで抵抗できるか、試してみようではないか。貴様の魔法障壁は我の腐敗の力で使用不可能。我がその気になれば、こんな細い腕、あっという間に引きちぎって——』

「えいっ」

『ゴボガッ!!!!』


 右腕を力任せに口から引き抜く。もちろん、牙は刺さったまま。見た目は痛々しい。

 解放された右腕で、左腕に噛み付いている頭部に肘打ち。頭蓋が砕け、左腕も解放。

 胴体に噛みついていた頭は自然に口を開き、呪詛と怨念と毒霧を吐き出す。


『貴様……貴様貴様貴様ァァァッッ!!』

「うるさい」


 空中から細工済みの鉄の延べ棒を取り出し、表面をなぞってから投擲。

 延べ棒は様々なものを吐き出していた口の中に見事にゴールイン。体の奥で大爆発した。

 今の延べ棒には、古代魔法文字で衝撃感知と爆発を付与しておいた。

 この組み合わせを使えば、大体のものは爆弾にすることができる……という仮説を検証したのだが、これは成功なのでは?

 

『貴様……何を投げ』

「さて、と。あとは私の火力を試して終わりね。レイなんとか、早く障壁を張りなさい。私の魔法を生身で耐えられると思ってるの?」

『舐めた口を……キクナァァァッッ!!!』


 魔神の紫と黒の鱗の輝きが増し、見知った魔法陣が展開される。なるほど……崩壊と腐敗を司る神ね。

 

『貴様ハ強イ。故ニ、我ガ最大ノ力ヲ持ッテ相手ヲシヨウ』

「純粋な力勝負ってわけね。私に勝てるかしら?」

『勝テヌ試合ニ手ハ出サヌ』


 魔法陣から鈍色の光線が放たれる。こちらも同じ魔法陣を展開し、応戦する。

 『散滅玄砲』。古の大戦で使用され、その一撃で国ひとつを崩壊させた禁忌魔法ね。

 一生使わない魔法!と思ってたけど、まさか二生目で使うことになるとは。

 

『オォォォォォォォォォォォォォ!!!』

「お〜」


 均衡が崩れ、少しづつ押されていく。

 ……これなら、もちっと魔力強めてもいいかな?

 

『この勝負貰っ——』

「えい」


 数倍もの大きさに膨れ上がった光線がレイなんとかを飲み込み、音も、色も、存在の全てを吹き飛ばす。

 ……障壁、壊しちった。

 

 

 

 

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