丸くおさまった後の女子会
「それでは、今回のアジト制圧を祝して……」
『乾杯っ!!』
ジョッキとジョッキがぶつかり合い、心地よい音色を奏でる。
いつもの居酒屋のいつもの席で、私——ミシェル・ミルハイナとロイス、ジュリちゃんの三名は女子会を開いていた。
キンキンに冷えたジョッキに注がれた金色の液体を喉に流し込む。
「ぷはぁ」
「美味いっ!!」
「美味しいですね」
諸々の事件から丸二日。
今回のアジト制圧は大変だったけど、みんなの協力で乗り越えることができた。
ロイスの『魔王様の武器を作るっ!』には驚かされたけど、結果としてそれも良かった。
私は、おつまみの”大きな”唐揚げを口に入れる。少し遅れて親戚の残念そうな声。
「そ、それ、アタシが狙ってたやつ!!」
「あら、気が付かなかったー」
視線を逸らし、店内の壁に立てかけられたメニュー表を速読。今日のお刺身は……うん。
「絶対わざとだ!ミシェルの意地悪!」
「ロ、ロイスさん。ミシェルさんも悪気があってやったわけじゃ……ね?」
ジュリちゃんの助けを求める眼差し。私の心の中の天使と悪魔と裁判官が判決を下す。
「すみませ〜ん!本日の刺身盛りひとつ!」
「んなっ!ここで無視ですか!?」
ロイスの顔がどんどん赤くなっていく。頬を目一杯膨らませる姿は流石の百面相。
こういう顔を見せてくれるから、ロイスには飽きないのね。
今にも椅子から立ち上がりそうな彼女を必死でジュリちゃんが押さえている。
ニヤニヤしながら眺めていると、いつもの給仕が、机に刺身盛りと人数分の小皿を置いてくれた。ちょっと可愛い。
「むぐ〜!!むぐ〜!!」
「ロ、ロイスさん!ほら、お刺身食べます?」
「食べる」
「ジョッキが空いてますね。お代わりは」
「いる」
何事もなかったかのように、私がお皿に盛った刺身を口に入れ——破顔。
真っ赤な顔が元の肌色へと戻り、今ではすっかり空気が抜けた満面の笑み。
私も刺身を口に運び——ぷはぁ!
「刺身とお酒は犯罪ね」
「この組み合わせ……邪神級だぁ」
ロイスの発言にぴくりと耳が動く。
邪神……今回は直接出てこなかったけど、そんな強大な存在を呼んで何がしたいのか。
ヘル様に今回の事案をまとめた資料を渡し、私は部屋を出る——直前で、あの御方はボソリと溢された。
『……オルデッド、モステルカ、テシリアル。崩壊体ならともかく、受肉されたら面倒ね。セイラスはまだ——』
オルデッドは三十年前に人間の英傑、ヴィナに殺された魔神。
さらに他の二柱も調べたところ、両者とも過去にヴィナに殺されていたことが発覚。
最後に聞こえたセイラスも魔神だが、呼び出された記録は消されていた。
何か隠さなければならない理由が……
「——ル!ミシェルってば!!」
「ふぇ?」
「ふぇ?じゃないよ!何度呼んでも返事はないし、なんかすごく難しい顔になってるし」
「今日は女子会ですよ?難しいことは明日に回して、今は沢山笑いましょう」
親戚と後輩が同じ動きで、ジョッキの中身を一気に空にする。
私のジョッキの中身は半分ほど。二人の顔を交互に見ると、ニヤリと笑われた。
「ほら、あとはミシェルだけだよ?」
「何度も呼ぶと給仕さんに迷惑ですから!今日は人も多いみたいですし」
言われてから周りを見渡す。よく見れば、魔王城で働いている者達ばかり。
二倍の残業代も、結果としてはよい方向に向かったみたいだ。
金色の液体に自分の顔が映る。良い表情だ。
「「お〜!!」」
半分ほど残っていたお酒を一気飲み。頭が少しぼーっとして、深く考えられない。
でも、この感覚が心地よい。今だけは悩みや苦しみから解放されよう。
三人でジョッキを掲げ、声をそろえる。
「「「すみませ〜ん!お代わりくださいっ!!」」」
「すぐに行きま〜す!」
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