ママ、お疲れ様

「ふぅ……せいっ!!」


 無駄に重い扉を蹴り飛ばし、粉砕。周囲の壁に亀裂が入るも、耐久性に問題はないだろう。

 薄暗い部屋に光魔法で灯りを追加。宙を舞う木片がうっすらと見える……だけ?


「何もないじゃん」


 その部屋には何もなかった。

 その様子は、まるでモノを全て持ち出された物置のようだ。

 というか、この様子だと秘密基地?隠した宝箱とか残ってないかな。

 私は何もない部屋に入る。そのまま石の壁をペタペタと触り始めた。


「こういうのは大抵、どこかの石がスイッチで外れるようになってて……ん?」


 変だな。どの石も外れる様子がない。少し強めに押してみようかな。

 私は深く腰を落とし、拳を正面に突き出す。

 分厚そうに見えた石壁が簡単に吹き飛び、音を立てて瓦礫が上から落ちてきた。

 小石が混ざった砂埃で視界が奪われる。

 

「いったぁ〜。こんなに脆い壁があってたまるか!もっと硬くしろ!!分厚くしろ!!」

 

 落ちてきた瓦礫の山から、かろうじて助かった顔をまずは回復させていく。

 なんとか両手も出た。おえっ、砂だらけだ。

 早くお風呂に入りた〜い。着替えた〜い。

 無理やり匍匐前進の姿勢で瓦礫の山から抜け出すと、傷だらけの全身も癒す。

 結局、この部屋には何もなかった。

 絶望するほど積み上がった瓦礫の山頂を眺め、緑の花に私はため息を吐く……ん?


「花……?」


 瓦礫の山を崩さないように登り、頂上で美しく咲いている緑の花を手に取る。

 どうやら、崩れたアジトの真上にあったようだ。根はまだ土に埋まっている。

 この花は確か……


「後始末だけしておこっか」


 私は花を片手に地上へと帰還。即座に錬金術で木の器を用意。

 さっきの花と私の魔力、事前にもぎった羊の毛、それと水をよく混ぜる。

 さらに、近くに落ちていた木の棒を拾い、地面に突き刺す。

 

「後はこれを……それっ!!」


 完成した液体を木の棒に浴びさせる。

 すると、なんの変哲もない木の棒が輝き始め……


「メェー」

「よしっ、成功!!人間より素性が楽で助かるわぁ〜」


 先ほどの花は『ケルトラ』。そこそこ珍しい花だ。

 常人の知識では染め物、あと魚料理に入れると美味しいぐらい。

 しかし私からすれば、触媒を混ぜれば生き物を蘇生することができる謎の花となる。

 私が羊姿から人の姿に戻った際、借りていた羊の体は吹き飛んでしまった。

 あとで怪しまれたくないので、きちんと元に戻しておく。これも魔王の仕事だ。

 私は羊の頭を軽く撫で、念の為に記憶改竄をして、転移魔法で小屋に戻した。

 

「ふんっ………ふぅ」


 昇る朝日を全身に浴びながら、大きく伸びをひとつ。今日も徹夜しちゃったなぁ。

 全身の砂と汚れを水魔法で吹き飛ばし、風魔法で速乾。空を見上げて独白。


「明日は絶対に休もう。アジト壊滅計画で私の出番は無いだろうし、一日中寝ても大丈夫か」


 転移魔法で自室へと帰還。机の上に置いてあるメモと鍵を発見。速読し——大欠伸。

 あぁ……眠い。頭が動かない。一歩、また一歩とベットに歩み寄る。

 私、あの子に何か貸した…か…しら……。

 限界を迎えた私は、メモの内容を理解せず、ぐっすりと眠りの世界へと誘われた。


 

 

 

 

 


 

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