魔王の武器を量産せよ
「ごめん、遅くなって……え?」
私——ミシェル・ミルハイナはその光景に唖然とし、その場に立ち尽くした。
魔王城備え付けの工房。
普段ならすべての社員は帰宅し、誰もいないはずのこの場所。しかし、今日は過去類を見ないほどに活気に溢れていた。
全ての機械がフル稼働。大量の部品を作業着を着た社員達が右へ左へと運んでいく。
「すごい活気……。あ、少しいいですか?」
「はい。どうかしましたか?」
たまたま近くを通った社員に、私を呼びつけた親戚の場所を聞く。
邪魔にならないように、さらには熱気を避けるように工場の隅を通っていく。
ようやく辿り着いた工場奥の扉。ドアノブを回す——直前に大きな音が三回。
驚いて手を離してしまう……ん?
『う〜ん……なんか違うね。もう少し威力出せるようにできない?』
『安全装置を減らしますか。となると、口の部分をもう少し広くするのは……』
『いや、この引き金が簡単に押せないようにするのはどうだ?ここを防ぐようにして……』
『それはいいな!すぐに作り直そう!!』
『ロイス様!また頼みますっ!!』
危険を察知。慌てて扉から離れる。
直後、中から飛び出してきたのは四名の社員達。先頭の者が持っているのは……黒い武器?
閉まりそうになる扉に飛びつき、中にいる親戚に声をかける。
「ロイス……?」
「お、やっと来た。遅かったね」
「言われた通り材料は手配しましたよ。明日の朝には届けるとのこと」
「ありがと!それと……ジャーン!!」
ロイスが見せてきたのは、この扉を出てきた社員が持っていた黒い武器。
通信魔道具の会話が思い出される。
「それは……あぁ、魔王様の武器でしたっけ。それ、本物ですか?」
「それはね……威力を見た方が早いよ」
ロイスが黒い武器を構える。直線で数メートル離れた場所には藁人形。
ところどころが黒く焦げている。
「見ててね……えいっ!!」
ズドン。
まず聞こえたのは全身に響く重い音。
次に見えたのは、倒れる藁人形。
最後に感じたのは火薬の匂い。
ロイスの手から魔王様の武器が滑り落ちる。
「ロイス!」
「痛ったぁ……。魔王様の武器は反動が強すぎるんだよ。少しは命大事にってね」
ロイスは両腕を上に上げたままの姿で硬直。
よく見ると、すっかり青くなっていた。私はすぐに回復魔法を発動。色を元に戻す。
「ちょっと!早く治さなくちゃ……」
「あはは……アタシは大丈夫だよ。痛みには慣れてる。これでも、兵站部門管轄だからね」
「限度があるでしょう!?」
すっかり元の色を取り戻した手を、ロイスは握ったり閉じたり。私は魔王様の武器を拾う。
見たことも聞いたこともない形状。外国で作られた武器だろうか?
「ミシェルはその武器知ってる?」
「いいえ。少なくともこの国では見かけませんね。外国で作られた……おっと」
武器が二つに外れ、中から特殊な形の弾がポロポロ。これは……鉛玉?
なるほど。火薬に火をつけ、その爆発力で鉛玉を飛ばす、と。
あの速さなら、当たりどころによっては絶命。少なくとも手傷は負わせられる。
恐ろしいほどに射程も長い。
生産コストや威力を除けば魔法に勝つ、新時代の魔王軍の武器、ね。
「改良品は少し威力は低め。でも、その分反動も少ない。誰でも簡単に扱えるよ」
「恐ろしい武器です。一般市民層には確実に出回ってはなりませんね」
「そういうのは、今日のアジト壊滅計画で諸々検証していくつもり。危険性とか、規制の強さとかね。そもそも量産品が作れないといけないんだけど……」
私は魔王様の武器を元に戻す。
社員達のあのやる気っぷりを見る限りですが、今日の昼前には完成しそう……ん?
「そういえば、社員達をどうやってこんなにも集めたのですか?本来の勤務時間ではありませんよね?」
「それは大丈夫。残業代をいつもの二倍出すって言ったから」
「……本気ですか?」
どう考えてもロイスは独断で動いてる。
私も一枚噛んでしまった。
あとで魔王様にバレたら……殺される。
社員の給料を二倍出す。そんな大金を国庫からいきなり持ち出すなんて不可能。
二人で財産を切り崩しても足りない。
「……いや、待ってください」
「んー?」
アジトを潰せば奴らの蓄えはこちらのもの。
話を聞く限り、奴らはかなり儲けているらしい。
社員の残業代くらいはあるかも。
「ロイス、必ず勝つわよ」
「ん?初めからその通りだけど……」
……これは負けるわけにはいかない。
私と遠い親戚の命がかかっている。
今日の私のやる気はいつも以上にあった。
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