ママ、娘の成長を知る。

『めぇー』


 転がっている女の頭を後ろ足で蹴り飛ばす。

 殺意の割に女は弱かった。

 羊の突撃で死ぬとは。可哀想に……。


「カル、ナ……お前、お前はっ!!」


 振り返ると、脇腹を抉られた男が立っていた。頭部からも血を流し、放っておけばそのうち死ぬだろう。

 男は女の頭部を拾い、優しく撫でる——と同時に握りつぶした。

 愉悦のこもった笑いが響き渡る。


「……本っ当に馬鹿だよなぁ。俺を見捨てて逃げればいいのになぁ。とっととあいつを起こせばいいのになぁ。ったく、恋愛感情ってのは、つくづく邪魔だよなぁ!!」


 男は長剣を投げ捨てると、懐から小さな鉄の棒を取り出す。あれはオルクの……

 

「死ねぇっ!!」


 夜空に反響する二度の破裂音。うん、やっぱりそうだ。あの娘が作った物にそっくり。

 でも、少し威力が足りないかも。量産品?


『めぇー』

「んなっ!!」


 放たれた鉛玉は、私の魔法障壁に防がれていた。男が情けない声を発する。

 あれは魔導銃。引き金を引くと魔力の込められた鉛玉が射出され、音よりも速く鉛玉が対象の体を貫く、殺傷力の高い小型武器。

 私と娘——オルクが共同で開発し、一緒に改良を進めていたものだ。


『めぇー』

「ふ、ふ、ふざけるなっ!アンティラから輸入された最新型の魔導銃だぞ!!そんな魔法障壁一枚で防がれるなんて……」


 アンティラ——この大陸最高峰の工業大国。

 あの機械大好き娘が好きそうな国ね。これは覚えておこう。脳内でメモメモ。

 この魔導銃はアンティラから密輸されたんだろう。魔王はまだ輸入輸出を許可してません。

 初級風魔法『風弾』で魔導銃を狙い撃ち。男が手を離した瞬間に奪い取る。


「痛ってぇ……ひっ。く、来るなっ!!」

 

 男は魔導銃を失い戦意消失。躓きながら背を向けて逃げていく。

 逃がさないよぉ。

 私は前足で魔導銃を構え、二本足で立ち上がる。男めがけて猛ダッシュ。


『めぇー』

「や、やめろっ!!」

『めぇー』

「や、やめっ——がぁぁぁぁっ!!」

『あ……ごめん』


 即座に男に追いついて足払い……のつもりが抉れた脇腹を蹴ってしまう。

 確実に骨の折れた感覚。男は地面を何度も跳ねながら岩壁に埋まった。

 おんや〜、あんなところに丁度いい的が。


『めぇー』


 よーく狙って……ズドン。

 男の眉間を貫いた必殺の一撃。壁に埋まった遺体は、ドサリと地面に倒れ込んだ。

 やっぱり威力が少し低い。あの娘の銃はもっと……


『ママ、見ててね。えいっ!』

『い、岩が凍った……!?』

『実はね、鉛玉にママの魔法を混ぜたら、魔導銃にも属性をつけれるようになったんだ!』

『オルクはすごいね〜。おりゃおりゃ〜』

『く、くすぐったいよ……えへ』


 あの娘が奴隷商人達に武器を貸与したとは思えない。

 神様の言っていた、娘達が大陸各国に分かれてしまった話は本当なのだろう。

 おそらくオルクは、アンティラで魔導銃の大量生産を始めている。

 この武器、訓練を受けていない一般市民でも簡単に人を殺せるようになるから、治安維持が大変に……あ。


『そのために威力を下げたのか』


 とりあえず、この魔導銃は自室へと転移。

 あとでじっくり解体して、中身を調べてみよーっと。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る