ママ、召喚される
「——だ!遂に我らの悲願は達成した!!」
『うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』
興奮隠せぬ男の声と、それに連なる者達の雄叫びによって、私は目を覚ました。
どうやら、転生は無事に成功したようだ。
薄く硬いベッドに寝かされている。
というか、何だこの……湿気まみれの暗い部屋は。欠陥住宅か?
体を半分起こし、周囲を確認し、納得。
この部屋には窓がない——ん?
ベッドの側で男が片膝を床につけ、跪いているのを確認。
その後ろにも、黒いローブに身を包んだ者達が、同じように跪いている。
代表して最前列の男が口を開く。
「新たなる魔王陛下よ。お目覚めでしょうか?」
この声はさっきの……うっ。
酷く頭が痛い。もう少し寝ていようかな。
無いよりはマシの薄い枕を見つけ、再び眠りの世界に落ちる……痛っ。
頭が壁に擦れた?いや、そんなはずはないんだけど……あ。
魔法で手鏡を生み出し頭部を確認。
「……ツノだ」
「魔法で鏡を!?」「何という魔法だ?」「失われた秘術だろ」「魔王様恐るべし」「禁呪だぁ」
男達の口から感嘆の声が漏れるが、今は気にしている余裕がない。
私の頭に存在する、漆黒の捻れたツノ。
それが二本もご立派に聳え立っている。
どうしよう……すごく寝にくい。
手鏡でツノを確認していると、先頭の男がいきなり立ち上がり、熱弁を始める。
「見たかっ!これが魔王様の魔法。失われし無から有を生み出す禁呪で——」
「うるさい」
「……へ?」
しまった……声が漏れていた。
娘達とは念話で会話してたから、言いたいこと、言いたくないことを勝手に分けていた。
久々に口を使うから、緩くなっているのかも?気をつけねば。
空気が悪くなってしまったので、とりあえず虚空を眺める。発言もしない。
「………」
「………」
『………』
耐えろ……耐えるんだ、私。
そうだ!顔とか体はよく見れてなかったから、さっきより大きな鏡を取り出して……あ。
「しまった」
「ひっ!!」
鏡と間違えて長剣を出してしまった。
なんか、いつもと魔力の感覚が違うんだよね。操作が難しいというか……ん?
跪いていた男達が、今度は揃って額を地面に擦り付けている。解せぬ。
とりあえず長剣は消した。代わりに手鏡を取り出す。
「陛下。わ、我が非礼をお許しください。貴方様のご機嫌を損ねるような発言——」
うわっ。本に載ってたヘルさんそっくり。
肌は少し青白い。荊のような黒服に身を包んでいる。杖は無いのかな?
ベッドの下を覗き込み、壁との隙間もくまなく捜索。魔力感知も忘れない。
「……どこだ?」
「でして……え、どこ?贄のことでしょうか?」
「ここには無いのか……?」
「も、申し訳ございません!我らが魔族は現在、人間界に侵攻できるほどの勢力が保てておりません。それどころか、衰退するばかりでございます」
ん?それ、神様が言ってた、魔族が滅びそうって奴だよね。
なんか頭痛も治ってきたし、現地民に直接話を聞くのもいいかも。
私はベッドから降りると、適当な木製の杖を生成。石突で地面を突く。
「それ、詳しく話してもらえるかしら?」
「——はっ!!」
「それと……」
「……っ!!おいっ、早く扉を開けて差し上げろ!!」
私は石突で、大きな木の扉を指し示す。
流石にこの湿った空気の中で話は聞きたくない。外の景色も見たいし。
全てを察した先頭の男は、何度も頷きながら後ろの者達に指示をする。
それを受けた黒ローブ達も慌てて扉へと向かう。薄暗い中で走ると危ないよ?
重く低い音を響かせながら、古臭い扉の隙間から光が差し込んでくる。
「どうぞ、お進みください。案内役は私が務めさせていただきます」
先頭の男の足はとにかく震えていた。
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