11 Much Ado About Nothing! 4
11.Much Ado About Nothing! 4
ラヴァナたちが、電脳戦へと移行して、すぐ――。
「アンドロイド部隊が、急襲してきた!」
太平洋防衛会議の会場に、トラックが乗りつけてきた。勿論、交通規制を突破してきたものだ。
第一次警戒ラインとして、周辺の道路に交通規制をしく。自動車はすべて自動運転なので、警備アンドロイドで十分……のはずだった。それをハックされ、簡単に突破された。
予想外の事態に、有機隊も大混乱に陥り、自動運転の枠をはずれたトラックが会場へ突入するのを止められなかった。
「一体、何体のエイルロイドを送りこんできたんだ?」
アグィは舌なめずりしながら、トラックを数える。監視任務に嫌気がさし、腕がうずいていた。
「旅団クラスなら、会議の混乱。師団クラスなら、制圧を狙っているのかもしれん。数ではこちらが有利だが、命という概念がないエイルロイドなら、その不利を補って余りある戦力だ」
ヴァイもスコープを覗きながら、そう応じる。
特公は有機隊の別働部隊であるため、命令を待っていた。
「アグィ、ヴァイ。電脳戦をしているところ悪いが、アンドロイドの殲滅に当たってくれ」
浦浜からの指令がきた。
「オレたちの仕事の時間だ」アグィはショットガンを手に、飛びだしていった。
強化外骨格――。特殊作業にあたるアンドロイドは、強度を増すために硬い装甲をもつ。
迷彩色で彩られたそれは、兵器として保管されていたもの、と推測された。しかもライフル銃を手にし、戦闘用AIで武装したそれが、トラックからわらわらと下りてくる。
アグィはショットガンで、その胸板を撃ち抜く。
作業用アンドロイドは、センサーをつぶされると安全面を考慮し、自動停止する。だからセンサーが集中する頭部を狙う。だが、戦闘用アンドロイドはセンサーの数も桁違いだし、頭部をつぶしても止まらない。だから全固体燃料電池を搭載する、胸を狙うのだ。
「二、三体は解析用にのこしておくか?」
アグィは余裕とばかり、ヴァイにそんな軽口を叩く。
「それはオレがやっておく。前衛のおまえは、気にせずぶっ潰せ!」
ヴァイも対戦車用の長距離ライフルで狙っており、その貫通力で正確にバッテリーを撃ち抜く。
「ありがてぇ。だが……」
アグィもその数に、統率力が伴っていないことに、不自然さを感じていた。
もし電脳戦が本命で、こっちは陽動だとしても、大量のエイルロイドを突入させたところで、大した効果はない。もしこれが獣なら、エイルロイドを無駄にする作戦を立てるとも思えない。
それに、どうして陽動が後なんだ……?
「会議はつづいているのか?」
浦浜が訊ねると、竹弐部長も「今どき、暴動では会議を止めないよ。警備ラインを突破されたら別だがね」
「戦時から軽くなったな、国際会議が……」
「どうせ予定調和だよ。クァデシンが導入されて以来、公にされる会議はすべてセレモニーだ」
「だが、突入してきたアンドロイドは恐らく軍の所有物だ。国際問題になるぞ」
「政治は大変だろうが、有機隊には関係ないさ。とにかく今の圧力なら、テロも鎮圧できるだろう」
「むしろ、この程度の圧力で何がしたかったんだろう……?」
「ん? 何か気になるのか?」
「大規模なテロの割に、成果がみこみにくい……という話さ」
浦浜がそうつぶやいたとき、このブースに警報音が鳴り響いた。
「弾道ミサイル⁉」
アグィも空を見上げた。彼らは会議が行われている迎賓館から、少し離れた位置にいる。核ミサイルでない限り、彼らが巻きこまれることはないだろうが、会議に参加する多くが死ぬ……。
「対空防衛システムは⁉」
「機能していない。軍のシステムは完全にやられたな……」
ヤマがそう応じるも、それは諦めに近い言葉だった。軍所有の強化外骨格をもつアンドロイドが乗っ取られていた時点で、軍のシステムに介入すべきだった。ただ、いくら特公といえど、軍のシステムに関与する権限はない。軍のホストサーバーはアンタッチャブルだ。
アグィとヴァイの目視できる位置まで、弾道ミサイルが近づいてきた。
もう祈るしかない。戦争のとき、何度も目にした光景だけれど、だからこそその凄惨さをよく分かっていた。
閃光と破裂音が響く。
思わずアグィも身を屈めたし、ヴァイもスコープから目を放した。
その弾道ミサイルは、着弾点の目前で、自爆したのだ。激しい破裂で衝撃による破損はあったものの、迎賓館は無事だ。
「くそ! 何がしたいんだ⁈」
アグィもそう叫ぶが、虚しいばかりだ。ただ、それとともにエイルロイドたちの動きも止まり、このバカ騒ぎは何ら大きな成果をもたらすことも、流れを変えることなく収束していた。
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