【400字】親密性の不忠実

葱巻とろね

親密性の不忠実

 愛している人を奪われた。


 ユミと共にいた時間は俺の方が長かったのに、彼女は新しい男の方へと行ってしまった。


 確かに、最近は一緒に過ごした時間や、介する言葉数ことばかずが減っていたが、男がいるなんて疑いたくなかった。


 小さい頃、ユミに『将来は結婚してずっと一緒にいる』と目を輝かせながら言われた。俺はまだ、その時の心が満ち足りる高揚感を憶えているのに、あれは嘘だったのか?


 ユミが出て行って、心の中にぽっかりと穴が開いた気分だ。しかし、彼女の意識が男に向いているのは本当なのだ。ユミは将来を見据えて前を向いている。俺も固執するのをやめて、彼女が成長するところを見守るべきなのだろう。胸が締め付けられる。これまでの記憶がフラッシュバックして涙がこぼれた。


 先日のことだった。木漏れ日が差し込む部屋。落ち着きがない俺の目の前にはユミとその彼氏が隣り合って座っている。男は決意を固めた表情で口を開いた。


「娘さんを、僕にください」

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【400字】親密性の不忠実 葱巻とろね @negi-negi

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