青年と新郎新婦

 青年と3等級の奴隷は、結婚式が開催される広場にやって来ました。

 昨日の飾り付けに加えて、料理やお菓子、飲み物などがわんさか準備されており、沢山の盛装をした魔族で賑わっています。


「こんなに沢山の魔族が集まっているのは、初めてみます」

「……そうだね」


 青年は素直に驚きます。

 昨日の夜、どこかで不安に思っていました。

 害悪の魔族の血を引く妹。その妹の祝い事を、どれだけの魔族が祝福してくれるのだろうか、と。

 成功を讃えるのならまだしも、今回の祝い事は結婚です。その血を残すことにもなる経緯を、誰が祝福してくれるのだろう。

 青年はそう不安に思ってしかたがありませんでした。


 しかし中身を見てみればこの通り。本当にたくさんの魔族がワイワイと集っています。

 料理に舌鼓をうち、酒を飲みかわし、音楽を奏でるものやそれに合わせて踊るものもいます。

 その魔族の多くが、とても大きく生涯残るような傷を負っていました。

 しかし皆、とても幸せそうに笑っており、会話が尽きることがありません。


「ご主人様」


 3等級の奴隷が袖を引きます。

 その指差す方に視線をやると、昨日見たドレスに身を包む美しい妹の姿がありました。


「とても素敵です」

「ああ……」


 ドレスやアクセサリーの美しさだけではありません。幸せそのものの象徴のように微笑む彼女は、とても素敵な存在でした。


「隣にいらっしゃるのが、旦那様ですね」

「みたいだね」


 そんな彼女の手を引く魔族も、また妹と同じように穏やかで暖かな幸せの象徴そのものです。

 沢山の拍手がありました。喜びの歌と踊りが広場を満たし、多くの魔族に幸せが伝わっていきます。


「来てくれてありがとう」


 妹は嬉しそうに青年と3等級の奴隷の元にきました。


「おめでとうございます、妹様」

「おめでとう、とても素敵だよ」


 ふたりの祝福に、妹は朗らかにお礼を伝えます。


「紹介したい方がいくつかいるの。まずは私の旦那様」

「はじめまして、今日はようこそお越しくださいました」


 新郎の魔族はとても丁寧な挨拶を交わしてくれます。


「こちらこそお招き下さりありがとうございます」

「妹をこれからも宜しくお願い致します」


 ふたりの言葉に、勿論と新郎の魔族は答えます。


「家族が増えて嬉しく思います。勿論、貴方様方もです。

 これからも親族として、仲良くしていただければ幸いです」

「それは……とても、嬉しい言葉です」


 かけられたことの無い言葉に、青年は少し戸惑いながらも答えます。


「ふふふ、私もとても嬉しいわ」

「良かったですね、ご主人様」

「あら、貴方もよ。この先の未来を思えば、貴方とも縁が深まるはずよ」


 妹の言葉に、青年と3等級の奴隷は顔を赤らめて視線を逸らします。


「少し早急だったかしら」

「そうでも無いだろう。きっと時間の問題だ」


 妹と新郎はそれをみてにこにこ笑っています。


「あのその、紹介したい人たちと言っていたが、他にもいるのかい」


 青年は照れ隠しのようにそう切り出します。


「その通りです。お兄様、お兄様いらしてくださいな」


 そう言って、妹は隣のテーブルに声をかけました。

 やってきたのは、青年よりも年上の男です。

 その手には、ふたりの子どもを連れていました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る