青年と盛装
青年たちが宿として案内を受けたのは、小さな可愛らしい家でした。
丁度ここに住んでいた魔族が新たに旅立ったとのことで、好きなだけ自由に使っていいと言われています。
「わぁ……」
宿でトランクを開けた3等級の奴隷は、感嘆の声を零します。
中にあったのは、ふわふわとした上質の生地で作られた衣装でした。
「見てくださいご主人様、とても素敵なお洋服です!!」
「縫製もしっかりしている……随分高いものだろう」
青年はその衣装を見て驚きましたが、中にあったのはそれだけではありません。
「ドライフラワーの髪飾り、ストラップシューズ……あっ!!
ご主人様、ご主人様の衣装もございます!!」
3等級の奴隷は、同じく良質の生地作られたジャケット等を広げます。
「大盤振る舞いだなぁ」
トランクの奥には、走り書きの文字でこう記載されていました。
『ささやかなプレゼントよ。受け取ってくれないとないちゃいますからね』
「素敵な妹様ですね」
「ああ、本当に」
3等級の奴隷は衣装を自分にあてがいながら、軽い足取りで姿見を眺めています。
嬉しそうに笑う姿を、青年は微笑ましく見ていました。
外からは、少女達の結婚式の祝いの準備を賑やかに整えている声が聞こえてきました。
「ご主人様、この先なにか御用はありますか」
「行きたいのだろう、手伝いに」
青年は3等級の奴隷の意図を汲みます。
「はい。せめて何かお礼をしたいのです」
「同じ気持ちだよ。どれ、一緒に行こうか」
ふたりは傍に寄り声をかけると、喜んでその申し出を受けてくれました。
花やリボン、植物や風船で飾られた式場は、手作り感こそ溢れていましたが、祝福の気持ちがこれでもかと伝わってきます。
翌日、ふたりは戴いた衣装に袖を通し、アクセサリーなどを身につけました。
いつもと違う髪型や装いに、思わず互いに笑みがこぼれます。
「とても素敵です、ご主人様」
「君もよく似合っている」
動きやすさを考えての衣服だったふたりです。飾りたてたその姿は、随分と印象が変わっています。
「……他の方がご主人様に見蕩れてしまったら、どうしましょう」
3等級の奴隷はストラップシューズに戸惑いながら少し不安に思いました。
「それはこちらの台詞だよ」
青年は転ばないように手を取ります。
「ご主人様以外に心を惹かれることなどありません」
「そうかい」
真剣な眼差しの3等級の奴隷に、青年は優しく笑みを浮かべます。
「俺も、君以外に迷うことは無いよ」
手を引く青年に、3等級の奴隷はほんのり顔を赤らめました。
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