青年と新たな旅立ち
宿屋の部屋は、静まり返っています。
青年はそっとベッドに腰掛けました。
「傍に置いてくれませんか」
3等級の奴隷が目を潤ませます。
「ごめん。何もしない自信が無いんだ」
青年は情けないようにそう言います。
3等級の奴隷にとっては構わないとも思いましたが、それは3等級の奴隷ではなく青年の傷になると悟ります。
「わかりました。ではせめて、手を繋いでくれませんか」
「……それならば」
青年は少し迷いましたが、ふたりはそっと手を繋ぎます。
「あたたかいです」
「君もだよ」
「……お慕いしております」
「……ありがとう」
青年は3等級の奴隷との未来も真剣に考えねばならないと思います。
数日が経ち、青年と3等級の奴隷は契約の国をあとにしました。
がらがら、ごとごと、荷車が音を立てます。
「聞いてもいいかい」
青年が口にします。
「はい、何でしょう」
「君は、俺のどこをすきになったというんだい」
青年は疑問に思っていました。
3等級の奴隷はふふ、と笑います。
「どこもかしこもです」
「存外、泣き虫なのは途方に暮れたろう」
「そこも含めて、です。ご主人様。
全部完璧な1等級の方よりも、この身も息がしやすく存じます」
青年はもにょ、と口を歪めます。顔が赤くなるのを、3等級の奴隷に見られないよう、必死に前を向きました。
がたがた、ごとごと。荷車は秋の気配を含めた風の中を進みます。
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