青年と契約の切れ目

「……え」


 3等級の奴隷は、青年の言葉に体を固めます。


「俺との旅は、とても危険だ。ただの旅のリスクだけでなく、多くの敵意が向けられる。

 怪我も沢山しただろう。今後もきっと、それは重なってしまう」


「元より覚悟しています」

「でも、俺は全部を守りきれない。今までの怪我とは比較にもならないほどの重傷を負うかもしれないんだぞ」

「それも覚悟しています」


 3等級の奴隷は伝えます。


「どこかで手足を失っても、命を落としても構いません。

 この身はご主人様のものなのです。だから……」


 必死で訴える3等級の奴隷に、青年は首を振ります。


「君が命を落としてもいいほど、俺に高い価値は無い。

 随分と俺の事をかってくれるけども、視野が狭くなっているだけだよ。

 長く一緒にいるから良く見えるだけで、気が昂ってるだけの錯覚なんだよ」


「違います、違います」


 3等級の奴隷は必死に訴えます。


「心からご主人様の事を尊敬しております。素敵な方だと思っています。

 この身の覚悟を信じてください。この身の心を信じてください」


 しかし、青年の瞳は暗いままです。

 3等級の奴隷は、目の前が真っ暗になるようでした。

 どのような決断を下すのか、3等級の奴隷は察してしまいます。


「嫌です!! この身は捨てられるくらいなら、奴隷魔法で刻印を受けます!!」

「よさないか」


 青年は3等級の奴隷を窘めます。


「自由にさせてあげると言っているんだよ。何が君にとってなんの問題があるのだい。

 随分と辛い思いをしただろう。それももう、ここで終えることができるんだよ」


 肉としてでもなく、奴隷としてでもなく、ひとりの魔族として生きていける。そう青年は伝えますが、3等級の奴隷は首を横に振ります。


「ご主人様といたいのです。それがこの身にとって一番の幸せなのです」

「……君は、世界をまだ知らないんだよ」


 青年は3等級の奴隷の隣に座り、背中を撫でます。


「俺よりもっといい魔族はたくさんいる。

 顔が良くて、性格も良くて、強くて優しい、聡い者が沢山いる。

 そんな魔族と出会った時に、君が奴隷となっていたままだとどうだい。

 契約を切る事は出来ても、その身に残る傷跡を無くすことは出来ないんだよ」


「それを受け入れてくれない方など、この身には必要ありません」


 3等級の奴隷はぽろ、と涙を零します。


「ご主人様がいいのです。ご主人様だけが、いいのです……」

「………………もう少し、よく考えよう。

 お互い、今は頭が冷えていないから」


 青年はそう言って、席を立ちました。


 その日の夜は、3等級の奴隷の好物が沢山出ました。

 高価なお菓子も青年は用意してくれてます。

 3等級の奴隷はその意味を理解していたため、素直に喜ぶことが出来ません。


 きっと、青年は明日にでも今の奴隷契約を切るのでしょう。そして3等級の奴隷が目覚める前に、旅立ってしまうです。

 追いかけても本気で走られたら追いつけません。もう、青年とは二度と会えなくなるのです。

 3等級の奴隷は悲しくて悲しくて、青年に見つからないように何度も涙を零しました。

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