青年と刻印

 青年と3等級の奴隷は、宿の部屋で羊皮紙を眺めます。


「焦土の魔法……茨の魔法……かなり使えなくなっているな」

「奴隷魔法もそのひとつなのですよね。代用のものはどうですか?」

「そうだね、ええと……」


 青年の指が羊皮紙の上をなぞります。


「なんだ、これは……」

「どうなされましたか」


 青年の指が止まった場所を、3等級の奴隷も覗きこみます。

 そこには、直接奴隷の肌に呪文を刻み込む、別の魔法のかけ方が書かれていました。


「こ、刻印……です、か……」


 3等級の奴隷は顔を青くします。


「冗談じゃない……生涯残る傷になるじゃないか、こんなもの」


 青年は羊皮紙から視線を外します。


「で、でも……でも、今までの奴隷魔法では、もう更新できないんですよね……」


 3等級の奴隷の言葉に、青年は唇を歪めます。


「他になにか無いか、探してみるよ」


 青年はそう言って、3等級の奴隷と共にまた街に繰り出します。

 沢山の魔族に聞きました。調べ物も沢山しました。

 しかしどう足掻いても、新しい奴隷魔法をかけるにはこの方法しかありません。


 青年と3等級の奴隷は、街の中で刻印のある奴隷を沢山見ました。

 赤く腫れ上がっていたり、血が出ている者も沢山居ます。


「ご、ご主人様……」

「大丈夫だ。何か他にあるはずだから」


 青年は3等級の奴隷にそれを見せないよう、同じ目に遭わせないよう、必死で方法を探します。


 しかしどれだけ探しても、あの方法以外にありません。

 今の関係を続けるには、3等級の奴隷に刻印を残す他ないのです。


「……ご主人様」

「言わなくていい」


 沢山の羊皮紙が散らばる部屋で、青年は首を振ります。


「いえ、言わせてください。この身はご主人様の物です。

 傷を負ったって消えなくたって、この身は一向に構いません」

「やめないか。そう簡単にしていい事じゃない」


 青年と3等級の奴隷は項垂れます。


「これだけ調べてわかったのは、豊穣の夜に今の魔法が消えてしまうことだけか」


 今の季節から考えると、豊穣の夜はそう遠くありません。


 青年は新たな奴隷魔法を使いたくはありません。

 3等級の奴隷も、心の奥では恐怖を隠せません。

 となればふたりの主従関係は、あと少しで終わってしまいます。


「奴隷の契約がなくても、この身はご主人様に仕えます。

 逃げたりなんてしません、逆らったりも致しません」

「君ならそうしてくれるだろう。それはわかってる、けど……」

「けど、なんですか……」


 青年の言葉が重いことに、3等級の奴隷は不安を感じます。


 青年には考えていることがあるようですが、3等級の奴隷にはそれを察することができません。

 3等級の奴隷にとって、魔法なしにこのままの関係を続けることが1番の解決策のように思えますが、青年にとっては何かが引っかかっているようです。


「前からずっと考えてたんだ。いつかどこかで、君を解放しなければならないと」

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