青年と亀裂

 泉の国では大きな事件は起こらず、調度品などを揃えて無事に出国することが出来ました。

 がらがら、ごとごと。荷車を引きながら、ふたりはまた旅に出ます。


「今度はどこへ行こうか」

「どこがいいでしょうかね」


 いつも通り、他愛のない会話をしていたところです。

 ぴし、と3等級の奴隷のネックレスにヒビが入りました。


「ご、ご主人様。ネックレスが壊れそうです!!」

「なんだって」


 青年はそれを見て、瞬時に状況を察します。


「奴隷魔法が、解けかけているね」

「……え」


 3等級の奴隷は、突然のことに言葉が詰まります。


「奴隷契約の更新をすればいいはずだけど……おかしいな、魔法の更新が上手くできない」


 青年はなんどもそれを試みますが、どうやら失敗してしまうようです。


「……契約の国に行こう。そこでなら、何かわかるはずだから」

「わ、わかりました」


 3等級の奴隷は真剣に頷きます。


 奴隷契約は、ふたりにとって大事なものです。むしろ全てだと言っても構いません。

 それが切れかけている中、3等級の奴隷は不安を感じずにはいられません。


 がたがた、ごとごと。荷車は道を急ぎます。

 ふたりの会話は、いつもより随分と少なくなっていました。

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