青年と泉の国

 泉の国は、丁度祭りの最中でした。

 いつもよりさらに多くの魔族が集まり、一風変わった空気を楽しんでいます。


「何だか変わった建物が多いですね。衣装も独特です」

「そうだね。ワフウ、と言うらしいよ」


 平たい木造の建物が立ち並び、祭りを盛り上げるためにか、各家々がお店を開いています。


「マーケット、ですか」

「似たようなものだけど、おそらくエンニチと呼ばれるものじゃないかな。特別な祭りの時だけの限定で出るお店だよ」

「貴重なのですね」


 3等級の奴隷はあまり見ない食べ物や売り物に目を配らせます。


「あれは、なんでしょう」

「タコヤキ、だね。タコとよばれる海産物を使った料理だよ」

「あれは、なんでしょう」

「カザグルマ、だね。風の流れを楽しむ玩具だよ」


 3等級の奴隷は、いつの間にか浮かれた空気を楽しんでいました。

 暗い顔つきだった3等級の奴隷のことを心配していた青年も、どこか穏やかな表情でそれを見守ります。


「なにか気になるものはあるかい。せっかくだから買ってみよう」

「あの、では、あれを」


 3等級の奴隷は先程から気になっていた、大きなフワフワを指さします。


「ワタアメ、かい」

「ワタアメ……」

「見ての通り、雲みたいなお菓子だよ」


 青年は屋台の店主にお金を払って、3等級の奴隷に好きなものを選ばせます。


「何色がいいんだい」

「あの奥にあるピンクがかわいいです」

「では、それをもらおう」

「毎度あり」


 3等級の奴隷はワタアメを青年から受け取ります。


「ありがとうございます」

「喜んでもらえてよかったよ」


 3等級の奴隷はワタアメを不思議そうに見つめながら、カプリと小さな口で齧ります。


「……!? と、溶けました!!」

「砂糖でできているからね。甘いだろう」

「はい、とても……でも、すごく不思議な……キャンディとは全く異なります」


 3等級の奴隷は夢中になってワタアメを口にします。


「美味しいかい」

「はい、でも」

「どうかしたかい」


 青年は首を傾げます。


「甘くてふわふわで、とても幸せな味なのに……すごく儚く消えるので、すこし寂しい気もします」


 ほとんど消えてしまったワタアメを3等級の奴隷は悲しく思います。


「また買えばいいよ」

「許されるのですか」


 3等級の奴隷は顔を上げます。


「沢山食べるとお腹を壊すから、また来た時にね」


 青年は3等級の奴隷からゴミ預かり、くずかごに捨ててから先を進みます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る