青年と花園の国

 さてふたりが向かう道ですが、少しずつ草木に混じって花々が増えてきました。

 見たことの無いものが増えてきて、3等級の奴隷の視線も楽しそうに泳ぎます。


「綺麗なお花ですね、ご主人様」

「この近くに、花園の国があるんだよ。

 そこにしか咲かない花が多々あって、これらもその1部だろうね」

「花園の国、ですか」


 3等級の奴隷はその響きに顔を明るくします。


「君は花がすきかい」

「はい。見ていると心が安らぎます」

「それだけかい?」

「……あと、美味しいです」

「ふふ、そうかい。では、立ち寄ってみようか。少なくなった香草や茶葉なども調達できるだろう」


「いいのですか」


 青年は喜ぶ3等級の奴隷を見て笑みを零します。

 ふたりは随分と自然に笑い、自然に会話をすることができました。

 荷車は穏やかな空気の中、ゆっくりと花園の国へと向かいます。


 花園の国は光と緑の輝きに満ちており、色とりどりの花々が2人を迎え入れます。

 3等級の奴隷と青年は、他の観光客と共に様々な花や木々を愛でました。

 この国にしか咲かない花々はどれも美しく、可憐で色鮮やかです。

 あれが可愛い。この色がすき。そんな会話を幾度となく繰り返しました。


 3等級の奴隷は、調度品の補充をしながら新たな香草や茶葉を目にします。

 その中で、香りの強い水に心を惹かれました。


「これは、なんでしょう」

「香水だね。花々の匂いをエッセンスにしているんだよ」

「素敵ですね……んんっ、値段が、すごいです」

「基本的に、貴族たちが楽しむものだからね」


 3等級の奴隷はその小瓶を壊さないように、そっと棚から離れます。

 その隣には、宝石とは異なる煌めきがありました。


「これはなんでしょうか」

「樹脂で固めたアクセサリーだね。ご覧、中に草花が閉じ込められている」


 青年と共に、3等級の奴隷はその美しさを楽しみます。


「とても綺麗です。これも貴族の方々が楽しむものでしょうか?」

「先程の香水よりは随分手に取りやすいものだよ。なにか気になるものがあるなら、買ってみるかい?」

「…………………いいの、ですか?」


 ごく、と3等級の奴隷は息を飲みます。


「ここまで随分頑張ってきたからね。それに、3等級となったご褒美をまだ渡してなかったろう」

「あ、ありがとうございます!!」


 3等級の奴隷はあれにしようかこれにしようかと必死に選択しています。

 ピアス、バレッタ、ブレスレット……

 その中で選んだのは、小さな指輪でした。


「ご主人様、こちらはどうでしょう」

「可愛いね、似合うと思うよ」

「え、えへ……えへ……」


 3等級の奴隷は溶ける様な笑顔で、それを青年から購入して頂きました。


「これにしたのは、デザインが気に入ったからかい?」

「それもそうですが、指輪だと1番目につくからです。折角いただいたものですから、たくさん目にしたいのです」


 そうかい。そう言って青年は嬉しそうな笑顔を横にします。


 この国はとても自然に溢れ、3等級の奴隷が好きなものがたくさんあります。

 永住するのもいいかもしれない。きっとこの子は喜ぶだろう。

 青年はそう思いながら、3等級の奴隷と今晩泊まる宿屋に向かいました。

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