青年と素質のなかったおにく
食欲の肉とされた魔族は、目を覚ましました。何故か、目を覚ます事ができたのです。
初めに見えたのは、青い空と輝く朝日でした。次に感じたのは、床がガタガタ動いている振動です。
「おはよう。目覚めたかい」
「……おはよう、ございます」
挨拶を交わしながら、自分を乗せた荷車を引く青年に、さっと顔を青くします。
「はした肉にも、なりませんでしたか」
「さぁ、わからない。品質検査には行ってないからね」
「……家を捨てたのですか」
「君には肉になる素質はなかったんだ」
それだけだ、と僅かな調度品しかない荷車をまた引きます。
「なら、ご主人様。この命は、なんのためのものだと言うのでしょう。なんのために、育ったというのでしょう」
肉としてしか生まれた意味を持たず、肉としてしか育ったことのないその身にはわかりません。
「さぁ。どうしたものかわからないね。
少なくとも、あの国で誰かの肉になるためではなかったのではないだろうか」
国王にも、誰にも、その身はきっと肉としてそぐわなかったとそう言います。
坂道にはいり、荷車の動きが鈍くなります。
「手伝います」
食欲の肉とされていた魔族が荷車から降り、後ろから押し込みます。
「助かるよ」
少しづつまた動き出した荷車を、ふたりは押し続けます。
「ご主人様。ご主人様はこの身を肉になる素質がなかったと仰いますが、ご主人様もあの国に住まう素質がなかったと存じます」
「だろうね。まぁ、その分他になにかがあるだろう」
気にそぐわない資質を持つより良い。そう言って鼻歌を歌ってます。
「これからどうしますか」
肉になり損ねた何者かが問います。
「さぁ。君は?」
「さぁ。どうしましょう」
肉にさせ損ねた何者かが笑います。
がたがた、ごとごと。ふたりの押す荷車は道を進みます。
どこまで進み、何者としての素質があったのかは、今の誰にもわかりません。
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