青年とおにくの熟成
宿に帰った青年は、役所から貰った羊皮紙を広げます。
色欲の肉となれば家宅所有権を5年は貰えるが、食欲の肉となれば、長くても2年。
同じ肉ひとつでも権利の長さがだいぶ違ってくるのです。
せっかく買ったのなら、できるだけ長く家宅所有権が得られる、色欲の肉になってほしい。
そう思った青年は、貧相な魔族を風呂につけます。
体を洗い、髪を切り、服を着せてはみましたが、やはり美人には見えません。
「申し訳ございません、ご主人様」
貧相な魔族は何度も頭を下げます。
「骨格が曲がってるから、地味に見えるんだ。肌も荒れてて、くすんでいる。まだ時間はあるから、少しでも直してみよう」
青年はできるだけ栄養があるものを食べさせ、運動や整体をさせてました。
貧相な魔族は、それなりの魔族になりましたが、それでもやはり、美人とは言えません。
あの時店で見た高価な魔族には、足元にも及ばない外見です。
「申し訳ございません、ご主人様」
「表情が暗いから、どんよりと見えるんだ。もっと前を見て笑顔を作るといい」
青年はできるだけそれなりの魔族と会話をし、笑顔のむけ方を学ばせます。
それは青年がここまで生きる中で必死に掴んだ技術でした。青年はそれを惜しみなくそれなりの魔族に伝えます。
それなりの魔族は臆病で器量もよくありません。しかし、青年は己の経験から罰を与えることはしませんでした。
それなりの魔族は失敗を重ね続けますが、それを許される度に少しずつ笑顔を上手く作れることが増えました。
「いかがでしょう、ご主人様」
「うん。お前には愛嬌がある。笑顔を向ければ、色欲の肉にもなれるだろう」
月日の中で、それなりの魔族は青年を信頼していました。
故に、なんとしても良い肉になろうと深く深く決意します。
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