バイト探し
「先輩、バイトをしようと思っているんです」
今日も俺の部屋の片付けを手伝ってくれた後、椅子に座って休憩をしている時に長谷川が言った。
「一人暮らしに慣れてきたらっていう話だったよな?」
「はい、もう六月半ばになって、大分一人暮らしにも慣れてきたので、バイトを探そうと思っています。先輩、何かお勧めのバイトってありますか?」
「この近くにある居酒屋はどうだ? 俺と中島もそこでバイトしてるんだ」
「先輩達が働いているんですか! それなら安心ですけど、居酒屋って酔っ払いとか少し怖いイメージがあります……」
「バイト先の居酒屋は常連さんが多くてあまり若い人もいないから落ち着いているぞ」
そう言って、俺はスマートフォンで時刻を確認した。
「そうしたら、そろそろ開店時間だし、今日は俺が奢るからその居酒屋に見学に行くか?」
「良いんですか?」
「ああ、確か今日は中島も居たはずだ」
「行きます!」
準備を済ませ二人で居酒屋に向かうのであった。
居酒屋の扉を開けると、「いらっしゃいませ!」と元気な声が聞こえて来た。
俺と長谷川に気が付いた中島が驚いた表情で口を開いた。
「あれ、東山に渚ちゃん? こんな所にどうしたの?」
「長谷川がバイトを探していて、俺がここを薦めたんだ。それで、今日は見学をしに来たんだ」
「おっ、そうなの? じゃあ、こっちおいで」
中島が案内したテーブル席に向かおうとすると、少し離れた席から声を掛けられた。
「あっ、東山君、見てよ! この子とこの子、どっちが好み?」
いつも俺に気さくに話しかけてくれる常連のおじさんが二人の水着の女性の写真を見せてきた。
酔っ払うといつも見せて来て適当にあしらう、というのが定番のやり取りなのだが、そんな事は長谷川が分かるはずがない。
「……東山先輩、ちゃんと働いているんですか?」
後ろから振り向く事が難しい程の圧力を感じる。
俺は身の危険を感じ、おじさんに、「また後で」と声を掛けると、長谷川を連れて急いで案内されたテーブル席に向かった。
席に着くと長谷川の厳しい視線が突き刺さる。
「……それで?」
「いや、あのお客さんは酔うとああなるから、いつも適当にあしらってるよ。そうすれば、満足する。ちなみに女性の店員には絶対にしないから大丈夫だ」
少しは状況を理解してくれたのか、圧力が弱まった気がした。
「まぁ、良いでしょう。私の父も酔うとよく絡んできましたから、理解は出来ます」
それから俺達は飲み物と食べ物をいくつか注文した。
「おう、東山。彼女を見せつけに来たのか?」
そう言って注文した食べ物や飲み物を持って来てくれた男性はこの店の店長だった。
「店長、お疲れ様です。彼女ではないですよ。バイトを探していて、今日は店の雰囲気を見せる為に連れて来たんです」
僕がそう言うと、長谷川が立ち上がって口を開いた。
「長谷川渚と言います。よろしくお願いします」
「採用」
長谷川の挨拶に対して店長は一言だけ返した。
「へ?」
俺も長谷川も戸惑いを隠せない。
「東山が連れて来たって時点で採用だ。働きたいなら、いつでもくれば良い。今日は楽しんでいってくれ」
店長は俺達が注文した物をテーブル置くと去っていた。
「東山先輩が連れて来たから採用って、信用されているんですね」
「まぁ、とにかく採用決定みたいだ。後は長谷川の気持ち次第だな」
「不安要素は居酒屋に抱いていた怖いってイメージでしたけど、店員さんもお客さんも明るくて良い人そうに見えます。是非、ここで働きたいです!」
こうして、長谷川のバイト先が決まったのだった。
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