受け取り方の違い

俺達は最後に屋外エリアを訪れていた。


「アシカを真下から見るって初めてですけど、迫力がすごいですね!」


長谷川は視線を上に向けながら大興奮だ。

水槽が透明になっている為、真下からアシカが泳いでいる様子を見る事が出来るようになっている。


「アシカってやっぱお腹が大きいよな」


俺の感想を聞いて長谷川が笑う。


「なんだよ、何か可笑しな事を言ったか?」


「先輩、感想が小学生みたいなんですもん」


「思った事なんだから仕方ないだろう」


「あっ、先輩のその言葉を聞いて思い出しました。

高校時代も先輩は対戦した選手を、『大きかった』とか、『早かった』とか、『思った事なんだから仕方ないだろう』って言ってほとんど意味が無い事しか言わないからチームメイトに呆れられていましたよね」


そんな事もあったな、と俺は懐かしい気持ちになった。


「だって、細かい技術の話って人によって感じ方が違うだろ? 俺が言ったイメージを信じ込まれるのは嫌だから、ほぼ確実な事を伝えるようにしてたんだ」


長谷川は優しく微笑んだ。


「先輩らしいですね。その変なところが真面目というか、周りと少しズレているというか」


俺は自分の事を指差しながら口を開いた。


「あれ、俺は今馬鹿にされてる?」


長谷川はゆっくりと首を横に振る。


「先輩は自分が見た事はそんな風に伝えるけど、指示を出す時は的確だから動き易いって評判で、ポイントガードとして活躍してたじゃないですか。馬鹿になんてしてませんよ」


俺は長谷川の過大評価を訂正する為に口を開いた。


「まあ、言葉も受け取り方は人によって違うから、あやふやな意味の言葉は使わずに短く簡潔には意識してたかな。でも、大会で好成績を残した訳ではないから活躍はしていないと思うぞ?」


すると、長谷川はニヤリと笑って口を開いた。


「それこそ、感じ方が人によって違うって事ですよ。私の目には先輩は活躍している様に見えていました」


「これは一本取られたな」


俺が少しおちゃらけて言うと、次の瞬間、二人で顔を見合わせて笑った。


アシカのエリアを抜けるといよいよペンギンのエリアだ。


「わぁ、ペンギンが空を飛んでいるみたいですね! 綺麗!」


アシカのエリアと同じ様にペンギンが俺達の真上を泳いでいた。

俺達は真下から見ているので、ペンギンの上の空も見えている。

その為長谷川の言う通り、まるでペンギンが空を飛んでいるように感じる事が出来た。

一生懸命上を見てペンギンを見ている姿は可愛らしく、それでいて光に照らされている長谷川はどこか神秘的に見え、綺麗だと思った。

俺は気が付けばスマートフォンを構え、長谷川の写真を撮っていた。


シャッター音に振り向いた長谷川が俺が構えていたスマートフォンに気が付いたのか、驚いた表情を浮かべた。


「先輩、勝手に撮ったら盗撮ですよ!」


「デート相手を撮るのは盗撮ではないだろう?」


長谷川は開き直った俺を呆れた表情で眺めている。

やがて気を取り直したのか、再び口を開いた。


「それに女性は写り方とか、角度とか気にするんですから、いきなり撮っては嫌われますよ?」


長谷川は俺に向かって手招きしながら言葉続ける。


「それに一人で写るのは寂しいです。先輩、一緒に撮りましょう!」


それからは角度がどうだ、ペンギンが入っていないと言いながら二人で肩を寄せ合って写真を撮るのだった。


俺達は写真を撮った後、水族館のショップを訪れていた。

様々な種類の商品が並んでおり、長谷川が、「あれも可愛い」、「これも可愛い」と言って、俺達はショップ内を見て回っていた。


やがて沢山のぬいぐるみが置いてあるコーナーに着いた。

長谷川はペンギンのぬいぐるみを見て、「可愛い」と言っている。


「長谷川、いつもお世話になっているから、好きなぬいぐるみを買ってやるぞ?」


「えっ、良いんですか? ……あっ、そしたら、先輩、このペンギンのぬいぐるみを買って下さい」


そう言って長谷川は小さいペンギンのぬいぐるみを俺に差し出した。


「子どもペンギンのぬいぐるみで良いのか?」


俺の問いに長谷川は元気良く頷く。


「大丈夫です。そうしたら、私は先輩に親ペンギンのぬいぐるまをプレゼントしますね」


「おいおい、それじゃ意味がないだろ?」


長谷川は首を横に振った。


「私も先輩にお世話になっているから渡すんです」


長谷川が良いならそれで良いか、と思い、「分かった。ありがとう」と答えた。


長谷川は満足そうに頷くと二つのペンギンのぬいぐるみを見つめた。


「こうして見ると、私達みたいですよね?」


その言葉に俺は首をかしげた。


「俺達、親子みたいか?」


「違います。身長差が私達みたいって意味です!」


そう言われると、その様にと見えるから不思議なものだ。


会計を済ませて、互いにペンギンのぬいぐるみを渡し合うと、長谷川が小さいペンギンのぬいぐるみを抱き締めながら口を開いた。


「先輩、ありがとうございます! 大切にしますね!」


そう言って微笑んだ長谷川はペンギンのぬいぐるみを持っていたからか、とても可愛らしく見えたのだった。

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