水族館デート

長谷川との水族館デートの日、俺は池袋駅の前で長谷川を待っていた。

長谷川が、「現地で待ち合わせの方がデートっぽいですよね」と言った為だ。


「せんぱーい!」


長谷川の呼ぶ声が聞こえたので、振り返った瞬間、俺は息を呑んだ。


長谷川の服装は、ネイビーのニットに白のプリーツスカートを合わせていて、普段の元気で可愛らしい感じとは違い、落ち着いていて大人っぽい服装に目を奪われてしまう。


「どうかしましたか、先輩」


長谷川が軽く微笑んでみせる。

その大人っぽい仕草が、普段との違いをさらに意識させ、俺は誤魔化す為に頬を掻きながら視線を逸らせた。


「いや、その、普段も可愛いけど、大人っぽくて、なんというか、綺麗だと思う」


「先輩、ドキドキしてくれているんですか?」


「してるよ。今日の長谷川は普段と違い過ぎるからな。……正直、滅茶苦茶緊張してきた」


その俺の言葉に長谷川は驚いた表情をする。


「……なんだよ?」


緊張から何かおかしな事を言ってしまっただろうか、そう思って口をした言葉に今度は長谷川が頬を掻きながら口を開いた。


「いや、誤魔化してくるかなと思っていたので、正直に気持ちを言ってくれる先輩が、その、可愛いなって思って」


「普段と違い過ぎて、後輩って感じがしないんだよ。だから、なんというか、調子が狂う」


俺の言葉に長谷川は、「ほほう」と言うと、突然俺の手に自分の手を絡めてきた。


「ど、どうした!?」


その俺の言葉に長谷川は笑って答える。


「慌て過ぎです、先輩。これはデートなんですから、手を繋ぐくらい普通ですよ?」


長谷川の柔らかな手に加え、近くに来た事で感じる良い匂いに後輩ではなく、女性らしさを感じ、長谷川とどう接すれば良いのか、分からなくなってしまう。

俺は気持ちを落ち着ける為に、大きく深呼吸をしてから口を開いた。


「そ、そうか。まぁ、取り敢えず、水族館に行くか」


あまり落ち着く事が出来なかった俺が面白かったのか、口元を緩めると、「はい、行きましょう!」と元気に言って歩き出した。

その姿に普段の長谷川を感じ、少し安心するのだった。


「わー、色々な種類の魚がいますね」


水族館に入ると様々な姿形をした魚達が出迎えてくれた。


「面白い形をしているな」や「小さくて可愛いですね」と言いながら進んで行く。


奥に進むと、クラゲトンネルというものがあり、文字通り、クラゲが泳いでいる下を通り進む。


「綺麗ですね」


沢山のクラゲがゆらゆらと漂う幻想的な様子に長谷川は静かに呟いた。


上の階に進み、亀とアザラシが見える場所で長谷川が立ち止まった。


「ここは先輩エリアですね」


長谷川のその言葉が理解出来ず、「どういう事だ?」と聞き返すと、長谷川は楽しそうに寝転がっているアザラシを指差すと口を開いた。


「先輩はあのアザラシみたいにゴロゴロと部屋の掃除もせずに怠けていて、あの亀みたいにゆっくり動き始めた、まさに先輩の成長を表す配置です」


「……それなら、長谷川はどれなんだ?」


馬鹿にされるのは嫌だったので、質問で言葉を返した。

俺の質問に長谷川は胸を張って、自慢げに口を開いた。


「私はそんな先輩をお世話しているので、飼育員さんですかね」


その言葉に俺は呆れる。


「人間を人間に例えちゃ駄目だろ」


その言葉に長谷川は目を見開く。


「ええい、だまらっしゃい! お世話する方は大変なんですよ!?」


「長谷川、落ち着け。大人っぽさが無くなっているぞ」


俺の言葉に長谷川はハッとした表情をするとみるみる顔が赤くなっていく。


「もう知りません! ほら次の場所へ行きますよ」


そう言って俺の手を引き、足を踏み出す長谷川。

大人な感じだけではなく、感情表現が豊かなところも可愛らしく良いと思うのだが、と考えながら、俺も足を踏み出すのだった。

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