お洒落は褒めよう

中島と長谷川と出掛けた数日経った今日、午前中で講義が終わった俺と長谷川は俺の部屋にいた。


「先輩、これはどういうことですか?」


長谷川は床に散らばっている様々な物を見て言った。

ちなみに俺は床で正座をさせられていた。


「えーと、綺麗な状態を維持しようとは思っていたんだけど、その、最近いそ……」


「ええい、だまらっしゃい!」


俺は言い訳をしようとしたが、彼女の鋭い言葉に最後まで言う事が出来なかった。


「ゴミが出たらゴミ箱へ、使った物は元の場所へ戻せば良いんです! 分かりましたか? はい、復唱!」


この長谷川の迫力の前では俺に拒否権は無い。


「ゴミが出たらゴミ箱へ、使った物は元の場所へ」


俺が言い切ると長谷川は一つ頷いた。


「いいでしよう。先輩、守れますか?」


俺は正座の状態で力無く頷いた。


「ああ、守るよ。悪かったな、長谷川」


俺が言うと長谷川はようやく笑顔を見せた。


「分かって下されば良いんです。さぁ、手伝いますので、片付けてしまいましょう」


長谷川のその一声で掃除の時間が始まった。


今回は前より散らかってはいなかったので、短い時間で終わった。

今、俺と長谷川は共に椅子に座って休憩をしていた。


「そう言えば、水族館に行く話なんだけどな」


俺が言うと長谷川の顔は明るくなった。


「はい、場所が決まりましたか?」


「ああ、池袋にある水族館に行こうと思っているんだけど、どうだ?」


長谷川は笑顔で頷く。


「勿論、良いですよ。すごく楽しみです」


「行く日にちなんだけど、今度の土曜日はどうだ?」


「大丈夫ですよ、行きましょう!」


俺が、「楽しみだなー!」と言っている長谷川を微笑ましく眺めていると、「あっ」と声を上げた。


「長谷川、どうしたんだ?」と、俺が聞くと長谷川の視線が厳しくなった。


「そう言えば、中島先輩とも話したんですけど、ドリームランドにお出掛けした時に、服装の事を一言も言ってくれませんでしたよね?」


そう言われて、思い出そうとするが、その時の長谷川の服装も含めて思い出す事が出来ない。


俺の表情が険しくなったのを見て、長谷川が、「ほら、覚えてない!」と厳しい口調で言う。


「あの時は沢山歩くと思って動きやすい服装だったとはいえ、それでもお洒落には気を使ったのに何も言われなかったのはショックです!」


長谷川のその様子に俺は慌てて口を開いた。


「わ、悪かった。次は褒めるようにするよ」


「宣言するのは違うとは思いますが、反省しているみたいなので許します。それも含めて楽しみにしていますよ?」


その長谷川の迫力がある笑みを見て俺は当日は変な事は言えないぞ、と覚悟を決めるのだった。

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