私がいますよ?

結局、先程の店で俺はチュー太郎、長谷川と中島はチュー子ちゃんの色違いのカチューシャをそれぞれ購入した。


長谷川はカチューシャを頭につけて上機嫌だ。


「準備が整いましたね! お昼頃にはパレードがあるので、それまでアトラクションに乗りましょうか?」


俺は頷いて同意すると同時に俺の隣に居た中島が手を挙げて提案した。


「そうしたら、ビックファイアーマウンテンに乗りたいな」


「良いですね、乗りましょう! 東山先輩は大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ。行こうか」


子ども頃からジェットコースターが好きだった俺は、久々に乗るという事もあってテンションが上がっていた。


しかし、そのテンションがビックファイアーマウンテンの待機列に並んだ途端に急降下していた。

久々に見たからか、すごく怖く感じるのだ。

だが、楽しそうな表情をしている二人を前にして、今更乗れないと言う事は出来ない。

乗り込んでしまえば大丈夫、と自分に言い聞かせた。


だが、そんな決意を嘲笑うかの様に列が進むにつれて緊張と恐怖が襲って来た。

もう少しで乗り込む順番が回ってくる。


「そう言えば、これは二人ずつで乗るアトラクションだから組み合わせどうしようか?」


普通に考えれば同性の長谷川と中島が共に乗る流れになるだろう。

俺はそう言おうとしたが、こちらを一瞬見た長谷川がそれよりも先に口を開いた。


「中島先輩には申し訳ないですけど、高校の時の部活先輩、後輩コンビで乗りたいです!」


長谷川のその申し出に俺は面食らうが、中島はうんうんと頷いた。


「良いよ。先輩、後輩で乗っておいで」


俺はそのやり取りに対して口を挟もうとしたが、アトラクションのスタッフに案内され、長谷川が先に席に収まってしまった。


「東山先輩、早く、早く〜」と、言われてしまったら、長谷川の隣に行かざるを得ない。


俺は長谷川の隣の席に収まると二人で安全バーを下げた。

すると突然、俺の手に温もりが訪れた。

驚いて自分の右手を見ると長谷川が俺の手に自分の手を重ねていた。

そのまま、長谷川に視線を移すと長谷川は微笑んでいた。


「先輩、怖いの我慢していたんですよね。でも、終わるまで私が手を握っていますから大丈夫ですよ?」


見抜かれた恥ずかしさからか、気付いてくれた嬉しさからか、とにかく感情がごちゃ混ぜになって、恐怖を忘れている自分がいた。


「……ありがとう。頼む」


自分でも驚く程素直に出た感謝の言葉に長谷川が頷くとアトラクションが動き出した。


「凄かったわね」


「早かったですね!」


アトラクションが終わり、長谷川と中島が感想を言い合っていた。

その途中で、長谷川が俺の方へ振り返る。


「先輩はどうでした?」


長谷川に手を握ってもらっていたからか、不思議と乗っている間に恐怖を感じる事が無かった。


「楽しかったよ、ありがとう」


長谷川は笑顔で頷くと、「次はパレードですよ!」と、言って進み出した。


俺は長谷川が握ってくれた感触を思い出しながら、二人を追いかけるのだった。

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