後輩とデートの約束

僕と長谷川は近所のスーパーに来ていた。

そろそろ暗くなり始めた店内には買い物客が多くいた。


「結構混んでるな」


「この時間割引シールが貼られるんですよ。賞味期限が近いですけど取り敢えず必要なのは今日と明日の分なのでこの時間に来る事にしました」


「良く時間を把握してるな」


「まぁ、一人暮らしのお金とかも今は出してもらってますし、節約出来るところはしていかないとって感じです」


そのまま肉や野菜等を選んでいく長谷川にカートを押しながら付いて行った。

買いたい物を籠に入れ終えてレジに向かう。

財布を出そうとする長谷川を手で制した。


「え? でも……」


「色々やってもらって、ここのお金も出して貰ったら僕の立場がいよいよ無くなってしまうから、ここは払うよ」


そう僕が言うと長谷川は「ありがとうございます」と言って財布をしまった。


会計を終えて持参してきた袋に食料を入れ店を出る。


「長谷川、重くないか?」


「大丈夫ですよ。先輩が多く持ってくれてるので、いつもより軽いくらいです」


そう言いながら二人で歩く。


「なんかこうして歩いていると同棲カップルみたいだな」


僕がぼそりと呟くと長谷川はキョトンとした顔をこちらに向けた後に「そうですね」とはにかんで笑った。


「冷蔵庫に適当に入れると何があるか分からなくなるので整理整頓しながら入れます。……あっ、卵の上に他の物を置いたら卵が潰れます」


僕の部屋に着くと長谷川先生の授業の冷蔵庫編が始まった。

長谷川先生の指導で冷蔵庫に買って来た物を入れ終えると長谷川は夕食作りに取り掛かった。

僕はその間に長谷川の指示でトイレ掃除だ。


それらを終えてリビングに戻ると長谷川が料理をテーブルに並べていた。

どうやら丁度完成したようだ。

二人で「頂きます」と言って食事が始まった。


「まだゴミ袋がありますけど、やっぱり綺麗な部屋で食べた方がご飯は美味しいですよね」


「確かに散らかっていたら、まず食べる場所の確保からしなきゃいけないからな」


そう言うと長谷川は呆れた顔をする。


「手間暇の問題じゃなくて気分の問題です」


「とにかく、これで綺麗になったな。ありがとう、長谷川」


「先輩、終わった雰囲気を出してますけど、まだまだこれからですよ」


「分かってはいるけど、正直疲れたな」


「今回はゴミの日がありましたから急ピッチでしたけど、少しずつ取り組んでいけば大丈夫ですよ。私も手伝いますし」


そう言うと長谷川は胸を張った。


「ありがとう。長谷川、助かるよ。出来る範囲で何かして欲しい事があったらなんでもするよ」


僕は感謝の気持ちを伝えたくてそう言葉にした。


「えっ、何でも良いんですか?」


長谷川はとても驚いているようだ。


「ああ、長谷川にはそれくらいお世話になっているからな」


「そうしたら何処かお出掛けに連れてってもらいたいです」


「お出掛け? ちなみにどこがいいんだ?」


「プランも含めてお願いします」


「出掛けるプランなんて考えた事もないぞ」


「そしたら、先輩が初めて考えたデートプランでお出掛けですね!」


長谷川はとても楽しそうだ。


「デートって……」


「男女が出掛けるんですからデートです!」


強く言い切られ、長谷川がそう言うならそれで良いと思う事にした。

しかし、デートかと思った瞬間、プレッシャーが襲って来た。

普通に出掛けるのと違って、デートと聞くと男性がエスコートをして女性を楽しませるというイメージを僕は持っていた。

これは今日の夜から考えなければならいぞと僕は感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る