後輩はママ? お姉さん?
次の日、授業を終えた僕は自分の部屋で長谷川を待ちながらいる物と要らない物を分ける作業をしていた。
長谷川とは途中まで一緒に来たのだが、掃除道具を取ってくるとの事で一度別れていた。
作業を始めて二十分程経った頃、インターホンが鳴った。
僕が扉を開けると大きな鞄を持った長谷川が入って来た。
「そんなに沢山持って来てくれたのか。重かっただろ?」
僕はそう言うが長谷川はケロリとした表情だ。
「バスケ部のマネージャーをしていた時の方がもっと持っていましたよ? まぁ、いつも先輩がそれに気付いてほとんど持ってくれてましたけど……」
「まぁ、重くて大変だろうって思っただけだし……」
「普段はだらしないのに、そういうとこにすぐ気付くのが本当不思議なんですよね……」
「普通に優しい先輩じゃ、駄目なのか?」
僕の拗ねた口調に長谷川は「そうですね。先輩はいつも優しかったですよ。ありがとうございます」と言って優しく微笑んだ。
「先輩は昨日と同様に整理整頓しつつ、掃除機も掛けてください。私は台所を綺麗にします」
昨日と同じくマスクとビニール手袋を装着した長谷川は今日の方針を説明した。
「台所? 自慢じゃないが僕はほとんど料理をしないぞ?」
すると長谷川は呆れたように溜め息をついた。
「このカップラーメンとかの空容器の量を見れば、聞かなくても分かります」
そう言って長谷川は大量の空容器が入ったゴミ袋を指差した。
僕はなんとなく恥ずかしくなり、「じゃあ、なんで今日掃除をするんだ?」と誤魔化すように言葉を返した。
「私が料理をします」
「えっ? なんで?」
「インスタントばかりじゃ栄養が偏ってしまいます。先輩にはいつでも健康で優しい先輩でいてほしいですから」
長谷川は少し顔を赤くしながらそう言ってくれた。
その言葉と表情に僕は心が温かくなるのを感じた。
その後は二人で黙々と手を動かし、気付けば夕方になっていた。
なんとか掃除機もかけ終え、僕達は一息ついていた。
「これで床と台所はだいたい片付きましたね。他は後日にしましょう」
「本当、ありがとう。助かったよ」
「後はゴミを出し忘れないようにしてくださいね?」
「はい、気を付けます……」
これではまるで母と息子のようだと思った。
「さて、では買い物に行きましょう」
「分かったよ、母さん」
「母さん!?私、そんなにおばさんっぽいですか!?」
ちょとした冗談のつもりだったが、思いの外、ダメージを与えてしまったようで長谷川は泣きそうな顔をしている。
「いや、沢山お世話をしてくれるからそう言っただけど、良い意味だぞ!」
そうフォローをするが、今度は頬を膨らませている。
その仕草を見て思わず可愛いらしいと感じてしまった。
「せめてお姉ちゃんって呼んでください!」
長谷川はダメージの影響か、自分で何を言っているのか、よく分かっていないようだ。
「長谷川、悪かったって」
「……言ってくれないんですね。やっぱおばさんなんだ……」
長谷川はしょんぼりしてしまった。
これは呼ぶしかないと覚悟を決めた。
「……分かったよ、お姉ちゃん」
何をやっているんだと恥ずかしくなる。
しかし、反対に長谷川はとてもハイテンションだ。
「やっぱり、先輩には私みたいにお世話をしてくれるお姉さんみたいな人が必要ですね!」
そう言うと楽しそうに玄関へ行ってしまった。
僕はどっと疲れながらも彼女を追って玄関へ足を向けた。
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