後輩と萌え袖

お風呂場から慌てて離れた僕は着替えが必要だと思い、取り敢えずパーカーとジャージの下を用意した。

再び先程の様な事が起こってはいけないと思い、僕はお風呂場から離れた廊下から声を掛ける事にした。


「長谷川、さっきはごめん。着替えが必要かと思って取り敢えずパーカーとジャージの下を用意したけど扉の前に置いておくか?」


「こちらこそ、騒がしくしてしまってすみません。置いてもらえると助かります」


「分かった。タオルはそこにあるやつ適当に使って良いから」


僕が服を置き、再び部屋の掃除に戻る。

そして、少し時間が経った時だった。


「先輩……」


声が聞こえた方を見ると長谷川がドアのところから顔だけ出してこちらを見ていた。

しかし、一向に出てくる気配が無い。


「どうした、長谷川。もしかして、どこかぶつけて怪我したか?」


僕が心配になって尋ねると長谷川は勢い良く顔を横に振った。

そして、ゆっくり出て来た長谷川の姿を見て、僕は思わず息を呑んだ。


「その、やっぱり男の人の服は大きいですよね。少し恥ずかしいです」


長谷川が着ている服はダボダボで袖もいわゆる萌え袖の状態になっている。

その姿を見て、自分が彼氏の服を借りた彼女というシュチュエーションを体験している事に気付く。

恥ずかしがっている長谷川の様子も相まって、僕も恥ずかしくなってしまう。


「その、似合っていると思うよ」


僕が顔を赤くしながら褒めると、長谷川は一瞬驚いた後、体をモジモジさせながら「ありがとうございます」と短く呟いた。


「その、怪我は本当に大丈夫か?」


変な雰囲気になりかけていたので、僕は慌てて話題を変えた。


「はい、大丈夫です。心配させてしまってすみません」


「いや、怪我が無いなら良いんだ」


そして、少しの沈黙の後、長谷川が僕から視線を逸らした後、口を開いた。


「先輩、その、下着、見えてましたか?」


その問い掛けに僕は慌ててしまう。


「いや、その、見てないよ?」


我ながら下手だと思う返答。

勿論、長谷川は納得した表情をしていない。


「……見たんですね」


「その、ごめん」


「事故のようなものだったので仕方がないです。でも、恥ずかしいので忘れて下さい」


「ああ、そうする……」


何とも言えない空気がこの場を支配する。

それに耐えかねたのか、長谷川が口を開いた。


「その、これから私の部屋に行きませんか? 服を借りたままなのも申し訳ないですからお返ししたいですし、もう暗くなってきたので私、晩御飯を作るので一緒に食べませんか?」


「僕は良いけど、長谷川の部屋に行って良いのか?」


いくら前から知っている後輩とはいえ、女子の部屋に行く事には少し抵抗を覚える。


「まだ先輩と話したいから夕食をご一緒したいとは思っていたんです。でも、この格好で出歩くわけにはいかないので…… どうせ、着替えに行くならそのついでに料理をご馳走しようと思いまして。だから、来て頂いて大丈夫ですよ」


長谷川が大丈夫と言うなら構わないだろう。

それに長谷川の手料理も興味がある。

僕は頷いて答えると、長谷川の部屋に行く準備を始めた。


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