シャワーアクシデント
ファミレスに入ると僕と長谷川は揃ってパスタを注文した。
「そう言えば、言えてなかったね。入学おめでとう、長谷川」
長谷川は嬉しそうな顔をしてぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございます! 先輩と同じ大学に入れて嬉しいです」
「まぁ、何か困った事があったら言ってね、力になるから」
「ありがとうございます。知ってる人が近くに居てくれると心強いです! そう言えば、先輩って何処に住んでいるんですか?」
「このファミレスの近くだよ。すぐそこら辺」
僕は大体の方向を指で示す。
「えっ! そうなんですか? 私もそっちの方なんですよ」
長谷川はそう言うと何か思いついたようにパンと手を叩く。
「そうだ! パスタを食べ終わったら先輩の家に行ってもいいですか?」
「いや、駄目だろ。男の一人暮らしだぞ」
しかし、長谷川は僕の言葉の意味が分かっていない様子だ。
「何が駄目なんですか? 昨日今日で知り合った仲じゃないですし。それに、多分、ムードも何も無いと思いますよ?」
「おい、それはどういう意味だ?」
すると、長谷川はやれやれとジェスチャーをしながら話し出す。
「先輩、バスケ部の部室のロッカーが汚かったって聞いてますよ? それによく物を無くして、探すのを手伝ってあげたじゃないですか。それを踏まえると……つまり先輩の部屋は汚い!」
ビシッと指を突きつけて言い切る長谷川。
少しイラッとするが確かに綺麗では無い事は自覚しているので、強く反論出来ない。
「……まぁ、多少は散らかっていると思うが、そこまで汚くはないぞ?」
僕がそう言った瞬間に長谷川の目が光った気がした。
「先輩、今言いましたね。それなら、部屋をチェックさせてもらいます」
急な話の流れに僕は慌てた。
「何でそんな話になるんだ…… まぁ、そこまで言うなら別に良いけど」
食事を終えて、店の外に出ると二人で僕の家に向かう。
家を目の前にすると、長谷川は口を開いた。
「本当にご近所だったんですね。私の家はすぐそこですよ」
長谷川ぎ指差す方へ視線を向けると確かに歩いて五分程で着きそうだ。
僕が「こんな偶然もあるんだな」と呟くと二人でエレベーターに乗った。
「やっぱり私の予想通りでしたね」
ドアを開いて一歩踏み出した瞬間に彼女はげんなりした表情で僕の部屋の評価を下した。
「おい、いきなりかよ」
「ええい、だまらっしゃい。とにかく窓を開けますよ!」
ずんずん窓の方へ進んでいく長谷川。
確かにムードも何もあったもんじゃない。
窓を開けた長谷川は僕にマスクとビニール手袋を要求。
僕が「そんなに汚いか?」と反論するも「だまらっしゃい」の一言で一蹴。
何とか、マスクとビニール手袋を探し出すとそれを二人とも装着する。
「今日、先輩は取り敢えず、部屋にある要らない物をまとめて下さい」
「長谷川はどうするんだ?」
「さっきお風呂場を確認したら、酷かったので私はそちらを掃除します。これから会う度に、先輩があのお風呂場で体を洗っているのかと思いたくないので……」
遠回しに汚いと言われてショックを受けるが、掃除してくれるだけありがたいと思い直し、部屋の掃除を始めた。
掃除を始めてしばらく経った時だった。
「キャー」と悲鳴と何か物が落ちる音が聞こえる。
僕は慌てて風呂場に行き、勢い良く扉を開けた。
長谷川は尻餅をついていて、シャワーの水を頭から被っていた。
服は張り付き、水色の下着が透けてしまっている。
扉を開けた音に反応した長谷川がこちらを向き、互いに目が合う。
その瞬間、長谷川の顔がみるみる赤くなっていく。
「取り敢えず、出て行って下さい!」
その声で我に帰り、僕は慌てて離れるのだった。
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