第58話
2017年の新春。YMとの短編ドラマの撮影も無事に終えて数日が経ったある日、僕はHMから誘われて熱田神宮へ、少し遅めの初詣に出かけた。HMは無事に就職先が見つかるようにお祈りをし、僕は4月から個人事業の商売繁盛の発展をお祈りした。
おみくじを引いたのち、HMと一緒に宮内にある茶屋で休息を取った。僕は和菓子と抹茶のセットを、HMはぜんざいと昆布のセットを注文し、穏やかでゆっくりとした時間を過ごした。怒涛な毎日をお互いに過ごしてきた中で、茶屋という静かな空間でのひと時は、現実逃避のような瞬間だった。まだ卒業式まで二ヶ月余りあるのに、雰囲気のせいもあってか、HMとは入学当初からの振り返りのような会話になってしまった。でも、そういう話をする時期になってしまったのだと、ふと感慨深さを感じる自分だった。
一月下旬、印刷会社へ雑誌やシナリオ本のデータ入稿が無事に終わりひと段落し、個人事業開業に向けての準備をしていた頃、パソコンのある教室で僕が作業をしていると、突然息を切らすようにHMが駆け込んできた。何事かと思えば、以前インターンでお世話になった東京のCG制作会社で契約社員扱いとして就職が決まり、その報告をしに来てくれたのだ。僕も喜んだが、同時にいつの間にか腹を割って話せる関係になって欠かせない存在になっていたHMが東京へ旅立っていくことに寂しさを感じた。そんな本音を打ち明けると、「ずっと会えなくなるわけじゃないんだから」とHMは苦笑しながら答えた。
数日後、HMは東京に持っていく生活雑貨を買うため、僕は事務所とする自分の部屋に飾る装飾品を買うために、大須商店街まで足を運んだ。装飾品のセンスが僕にはないので、HMがいろいろ選んでくれた。その後、大須観音でお参りをし、商店街名物の唐揚げを食べながら方々を回った。
卒業進級制作展まで半月となり、ついに卒業がすぐそこまで来ている実感が、僕にあった。
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