第54話

フリーペーパーの制作業務を請け負うことは、僕にとっては光栄ではあったが、同時に荷が重いものであった。自社制作のフリーペーパーとはいえ、いち企業の中で制作している発行物である。まだ社会人にもなっていない学生の一人に過ぎない自分が、制作業務全般を行って良いものか、自分の中で迷いがあったことも事実。

ふと僕は、この会社が大学生のインターンシップのマッチングや就活イベントを行っていることを思い出した。せっかく県内の大学とのコネクションがあるならば、『学生事業部』という部署を作り、そこでフリーペーパー制作をしてはどうかと提案。早速社員会議で相談しようということになり、すぐ『学生事業部』の設立が決まった。『言いだしっぺの法則』という言葉のとおり、僕は『学生事業部長』に就任。同い年や一つ上の大学生が何人か携わることになり、学校外のサークル活動のような形で『学生事業部』による、フリーペーパー制作が始動した。


一方、ポートフォリオ制作はようやく形になった。雑誌のような構成で実績や自己紹介のエッセイ的なものを書き、講師の先生方からはコラムとして『先生から見た僕』をテーマに寄稿していただいた。デザインはグラフィックの先生に添削をしてもらい、データを印刷会社に発注し、合計24ページの小冊子のようなポートフォリオができあがったのだ。

僕のポートフォリオは完成したが、まだできあがっていない友人たちもいる。内容のことは偉そうには言えなかったが、説明文や自己紹介といった文章の箇所で僕は友人たちに意見を述べた。普段自分で文章を書いていることから、僕の中では至極当然なことを言っているつもりでも、他専攻の友人からすればそれは専門的な貴重な意見だと言う。「文章は誰でも書けるが、人に読ませる文章を書けることとは違う」と指摘され、改めて僕は自分が『人に読ませる文章を書く専門知識』を学んでいることを実感した。

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