第52話

新学期になり、僕らは3年生という最後の学校生活がスタートした。4月になってすぐ、姉妹校のHAと鶴舞公園までお花見に行き、街灯に輝く夜桜を眺めて、ようやく春を体で感じた。HAが、SNSで「大好きな先輩とお花見行ってきた!」とツーショットの写真をアップしたことで、思いがけず熱愛報道が出て、周囲のメンツが騒然。「LIKEのほうの好きだと思う」と弁解をしたことで、何とか熱愛報道の噂はすぐに消えていった。

卒業後の進路が上手くいくお参りに行こうと、YMが熱田神宮へ誘ってくれたのは、そのすぐ後のこと。HMと3人でお参りをして、おみくじを引き、その後学校近くのファミレスに行き、今年1年をどんな風に過ごそうかを話した。どの専攻でも進路に悩むのは同じであった。


進路のことやポートフォリオ制作に悩む一方で、フリーペーパー事務所でのアルバイトは順調であった。連載小説は読者の方に好評であったと、後から社長に聞かされた。脚本ではないが、自分で作ったストーリーのもと執筆した短編小説が好評なのは作者冥利に尽きるというもの。

ゴールデンウィークが明けてまもなく、僕は入学事務局長から呼び出しを受けた。局長からの呼び出しは初めてだったので何事かと思いながらも、僕は訪ねていった。学校案内パンフレットは、資料請求をする入学志望者に郵送しているのだが、今回から学校新聞も資料として発行することになり、6月に控える学園祭をその新聞の1面記事にする予定とのこと。局長は、その1面記事の原稿を僕に書いて欲しいと依頼してきたのだ。聞けば、教務室前のチラシコーナーに設置してあったフリーペーパーを見て、僕に執筆依頼を思い立ったという。自分の通う学校の宣伝ツールとも言うべき学校新聞の、しかも1面の記事を書かせてもらうなど、この上ない光栄だと思い、僕はその仕事を引き受けた。日々の活動が、ようやく繋がり始めていると実感した瞬間であった。

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