第49話

卒業進級制作展は、学校近くの展示会場ホールで開催された。漫画やイラスト、CG作品のパネル展示、ゲームの体験ブース、小説や雑誌の展示・配布ブース等、専攻ごとに学生の作品が数多く展示されていた。

来場者には、業界企業の担当者や保護者、そしてオープンキャンパスイベントとして来ている高校生と、様々である。この準備に向けて、実行委員会では約3ヶ月近くの時間を要してきた。展示に使うパネルは、職員が印刷したものを実行委員でひたすら切断作業をしたり、業界企業への宣伝やテレアポも学生が行ってきた。僕は去年も、こんな大変なことをしていたのかと実感したが、去年一度現場を経験しているので、今年の準備では比較的スムーズだったと思っていた。

現に営業と宣伝以外に、総務グループというチームができ、縁の下の力持ちの如く書類の手配や会議議事録など、昨年実行委員長や副委員長が行っていた雑務全般を引き受けることで、トップが全体進行や把握を行いやすい環境に改善ができていた。


それでも準備までは当然バタバタではあったが、何とか当日は落ち着いた雰囲気の中で来場者の対応などを行うことができた。自由時間の間、僕は映像専攻の展示ブースに設置されたモニターを眺めていた。そこには、NMと共に作り上げた自主ドラマの本編がループ再生された状態で流れていた。

高校時代の同級生・Mが女優として、ヒロインの友人役を演じている。他には読者モデルであったNMの大学時代の同級生や、舞台俳優をしているNMの高校時代の同級生が、見事に役を演じきっている。結婚を考える主人公とヒロインという、王道でベタな恋愛ドラマではあったが、自分の書いた脚本をもとに役者が演じ、それが一つの作品となっていることに、大変感慨深いものを感じた。これが脚本の醍醐味だと思いながら、気が付けば本編丸ごと見てしまっていた。「やっぱり、脚本家になりたい!」と改めて思った瞬間でもあった。

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