第32話

専門学校の生活が始まった早1ヶ月。校内では、6月中旬に控える学園祭の準備に追われていた。各専攻の有志が集まって企画されるお化け屋敷や、僕らの小説・シナリオ系の学生が企画する駄菓子屋など、例年受け継がれている企画を形にするために動き始めていた。

学園祭の準備は、基本的に空きコマや授業後に、それぞれの教室で集まって準備が行われるが、文章系では駄菓子屋のポップ作成も『コピーライティング』であるからと、準備を授業の一環として配慮してくださる講師の先生もいらっしゃった。

その一方で通常授業も行われており、僕は小説制作の授業で苦戦していた。講師の先生からは、小説を書く視点がブレているという。これまで小説を書いてこなかった僕にとって、いきなり三人称一元視点で描く書き方はハードルが高いため、一人称視点で書いてみると良いとアドバイスをいただいた。が、それでも小説が上手く書けず、説明や描写として使う地の文が、シナリオのト書きと同じぐらい簡潔すぎていたほどだった。


授業に苦戦しながらも、僕は駄菓子屋の準備と掛け持ちで、お化け屋敷の実行委員会にも入った。この1ヶ月で知り合った他専攻の友人たちのほとんどが、お化け屋敷実行委員会に入っていたこともあって、準備はとても楽しかった。

お化け屋敷のお化け役をするにあたり、みんなでメイクのテストをしたこともあった。みんなは白い顔になるとお化けのようになるのだが、何故か僕は公家の貴族のような顔になってしまい『マロ』と言われたほど。そんなワイワイと準備をする時間は、普段の文章系の授業ではない賑やかさだったので、とても新鮮味を感じていた。

ある日、お化け屋敷の準備で学校が閉まるギリギリまで残っていた僕のもとに、母から連絡があった。修学旅行で東京に行っている中学3年生の弟の乗車したバスが事故に遭ったというのだ。僕は慌てて、お化けのメイクを落として、家路についた。

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