第9話 洞窟ゴブリン

 脱出路の洞窟は延々と終わらないように思われたが、ロマは歩みを止めない。


「どれくらい長いんだ?」

「山の反対側が出口だから少し長いわよ」

「頭」


 ロマが手を挙げて立ち止まるよう促した。


「私も聞こえたわ」

「ドラゴンか?」


 ベレスは既に剣の柄に手を掛けている。


「いえ。洞窟ゴブリンよ」

「何だと?」


 ベレスが聞き返すと、遠くから微かに不気味な声が聞こえて来た。


「ゴブリンよりタチが悪いわ」

「聞いた事ないが」

「種族の秩序を破って、両目を潰され地下に追放された同胞が、どうにか適応したみたい」

「油断するな。連中は真っ先にここを食いちぎる」


 ソマーが人差し指でベレスの頸動脈を撫でた。


「どうする?」

「ロマに任せるのよ」

「彼女が?」


 ベレスが首を傾げた時、素足で岩を駆ける音が近づいてきたと思うと正面に洞窟ゴブリンが3体現れた。

 後ろにも2体現れ、一行を挟んだ。


 指で押し潰された両目は痛々しいが、その代わりどんな音も聞き取る長い耳がヒクヒク動いている。


「喋り過ぎたな」


 ソマーが呟いた。


 ロマは魔導ランプを左手に持ち替えると右手を挙げ、親指と中指を合わせる。


「頭」

「やって」


 指をパチンと鳴らすと、前後の洞窟ゴブリンに閃光が走り、一瞬で引っ繰り返った。


「凄い。今のは?」


 ベレスが驚きつつ感心して聞く。


「電撃魔法。気絶させただけだから、急ぐわよ」


 そう言ってロマは先を急いだ。

 この後も洞窟ゴブリンを何度もロマの電撃魔法で撃退しながら進み、遂に一行は洞窟の外に出た。


 しかし悪い事に、あちこちから音を聞きつけた洞窟ゴブリンが現れ、囲まれてしまった。


「凄い数だ」

「繁殖しているらしいな」


 4人は十時方向を向くように背中を合わせた。


「ロマ、電撃魔法は?」

「頭、この数じゃ捌き切れません」

「残りは叩き切る」


 ベレスは気合十分のようだ。


 統率者らしき大柄な洞窟ゴブリンが出て来ると、合図の叫び声を上げた。


 しかし群れは一歩も動けなかった。


 不意に統率ゴブリンの真下からドラゴンの口が現れ、噛み砕いてしまったからだ。

 叫び声が途切れ、明らかに不測の事態が起こった事を悟った洞窟ゴブリン達は狼狽えた。


 その間にもドラゴンは地中を動き回って何度も洞窟ゴブリンを引きずり込んでいく。


「走れええええ!」


 ソマーが走り出し、一行は混乱する洞窟ゴブリンの群れの間を縫って脱出を試みた。


 背後では尚もドラゴンの両顎が閉じる恐ろしい音と、洞窟ゴブリンの断末魔が続いたのであった。



 続く



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