第7話 釈放
エルフの村では、王国軍伝令の警報でラグモ市への避難が行われていた。
「急げば日没頃には到着出来るかと」
「ハンター隊が頼りだな」
村長や幹部が話し合う傍ら、武装したハンター隊が樹上や屋根から見張っている。
「ママ、準備出来たよ」
少年を振り返った母親は、瞬間血相を変えて少年に走り寄り、抱き抱えながら横に跳んだ。
ドラゴンの大顎が空振ったのはその直後で、あと少し遅ければ少年はドラゴンの胃袋の中だったろう。
「奴だ!」
「撃退しろ!」
ドラゴンに気付いたハンター達が一斉に矢を射かける。
精確な狙いがドラゴンの頭に集中し、ドラゴンは矢を振り払いながら2、3歩後退する。
「早く行け!」
ハンター隊のリーダーが手を振って先に行くよう促しながら飛び掛かり、剣で斬り付けた。
が、ドラゴンは跳躍しようとしたリーダーをはたいて近くの樹木に叩き付けると起き上がる間も与えず嚙み殺した。
血飛沫が舞い、一瞬でリーダーを倒されたハンター隊が動揺した一瞬の隙を突き、ドラゴンは村に踊り込んだ。
同じ頃、ラグモ城の地下牢の1つの前に、看守長を先頭にソマーやベレスが立っていた。
「あんた、傭兵だったとはね」
「元傭兵、だよ」
「開けますぜ」
看守長はその牢の鍵を外し、丸太のような腕で分厚い鉄製の扉を踏ん張って開いた。
中から蝋燭の弱い灯りに照らされながら、腕立て伏せするエルフの女性が姿を現す。
「メナ」
メナは船頭を見上げた。
「ソマー。何の用?」
「メナ・エラン。釈放だ」
看守長の言葉にメナは立ち上がる。
「あと2年じゃ?」
「お望みならそうするかね?」
「結構。で、要件は?ソマー」
「そんな…」
メナは血の海と瓦礫の山と化した先刻のエルフの村の中で立ち尽くした。
ソマーやベレス、護衛部隊も言葉を失っている。
釈放直後に知らせが入り、急行してきたのだ。
「彼女の故郷か?」
ベレスがそっと聞くと、ソマーは小さく頷いた。
「生存者を探せ!警戒も怠るな!」
護衛部隊隊長が役割を振る中、ソマーがメナに歩み寄り、
「気の毒だよ…」
その時、子供の啜り泣く声が近くの崩れた家屋から聞こえた。
ベレスも加わり3人で瓦礫をどかすと、危うく食われそうになったあの少年が母親を揺すっていた。
倒壊から我が子を守ったが、自身は木材に腹部を貫かれたらしい。
「ママ…ママ…」
「さあ、行くわよ」
「母親は俺が」
メナが少年を抱き抱え、ソマーが母親の遺体を担ぎ起こす。
ベレスは兵を2人呼ぶと捜索を続けた。
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます