第一章 学園入学。そして主人公と出会う

第7話 学園都市への旅立ち



 <ユニファン>の世界、そしてこの島は、元の世界――というより日本によく似ている。

 

 1年、12ヶ月の時間の巡りが、この島に春夏秋冬をもたらす。そして春は、花が咲き誇る門出かどでの季節。

 

 

 薄暗い部屋の中、俺は手作りのカレンダーを見ながら赤い丸をつけた部分――今日の日付に目をやる。

 3月20日。……もうすぐだな。


 学園への入学日は4月1日。その日から<ユニファン>の物語が始まる。


 そして今日は、学園都市に向かって出発する日。

 やっと来た。そう思うだけで自然と力が入り、決意がみなぎる。


 昨日からそんな状態だったからか、かなりの早起きをしてしまった。


 そして今、暇を持て余してベットの上で大の字になっている。意味もなく天井を見つめていると転生したばかりの頃を思い出す。

 

 俺は何故、この世界に転生したのだろうか。

 やっぱり、元勇者だから選ばれたのか? でも、それにしては雑な対応だよなぁ。

 色々考えるがもちろん答えなんて出るはずがない。


 日差しが強くなり、部屋が明るくなってきた。そろそろ準備しないといけない頃だ。


 無意味な思考を振り切り、体を起こしてベットの下をまさぐる。……いやエロ本とかを隠しているわけじゃないぞ!?

 ただ、家族にも秘密の物があるだけだ。


 そして一枚の紙を引っ張り出す。それには<ユニファン>のことがで書かれていた。

 俺が覚えている限りのこと全てを記したコレを、誰かに見られるわけにはいかない。

 

 忘れずに持っていかねえとな。


 リュックの奥に紙を丁寧に仕舞い込み、その上に着替えなどの必需品を突っ込んでいく。


 準備が終われば、俺専用の革鎧装備に着替えはじめる。シャツを着れば、次は鎧。


 最後に、腰に黒のベルトを装着し、剣帯と鞘とともに剣を差す。この鉄の剣は、父さんに貰った普通の鉄剣よりも頑丈な逸品いっぴん


 よし準備は完了だ。それじゃあ行くか。



 馬車に最後の荷物が積み込まれる。手の空いた父さんたちが俺に話しかけてきた。

 

「そろそろ行く時間だね」


「ううっ、ぐすっ。クロウちゃん、もう行っちゃうの?」


「あはは……あまり引き止めちゃダメじゃ無いか。ちゃんと見送ってあげないと」


「……うん、そうする」


 半泣きになっている母さんと微笑みを崩さない父さん。そんな二人の姿を見て、あの騒がしかった日々が終わるんだと実感してくる。

 そう思うと結構寂しい。


 怪しい風が吹き、どんよりとした雲が太陽を遮るようにして空が灰色に染まっていく。


 心の中に陰が生まれる。それは二人への後ろめたさだ。

 

 俺は、学園に入学したら一度も帰省せず卒業までいき、そのまま魔王討伐を目標に旅を始めるつもりだ。


 理由は、まあ、色々あるな。俺自身が本当のクロウじゃないという罪悪感とか、みんなに反対されるだろうから帰りたく無いという気持ちもある。

 

 だが、家族やこの村を守りたいという思いは本物だ。

 

 二人の心配や想いを無視してでも、必ずこの世界ごと助けてみせる。これが俺の覚悟なんだ。

 

「おいおい出発の挨拶はもう十分だろ? 別に一生の別れじゃ無いんだからよ」


「確かに少し大袈裟な気もするね」

 

 馬と馬車の手入れを済ませて話しかけて来たのは、父さんの弟であるシルド叔父さん。黒髪黒目で父さんによく似ているが、メガネを掛けていないので判別は容易だ。

 商人としてこのシシ村とシロモリ町(1番近くの町)を繋ぐ重要な役割を担っている。


 叔父さんも父さん寄りの性格で、別れの挨拶は長引かせない派だ。それに、町に着くまでに2回ほど野宿する必要があるから、早めに村を出た方が良いしな。


 名残惜しさを感じながら、最後の挨拶をしようと両親の前に立つ。母さんは泣き止んでおり、2人ともしっかりとした目つきでこちらと目を合わせる。


「最後に僕たちからこの腕輪を渡しておくよ」


 そう言いながら渡して来たのは少し錆びついて輝きが薄れた銀色の腕輪。細長い棒が2周回って二重の輪になった形をしている。

 シンプルながらも綺麗な彫刻が施されており、高貴さが感じられる。

 

「この腕輪はシシ家に代々伝わる宝具の一種で、ご先祖様が貴族になる前から持っていた物らしい。

 家には旅する我が子にこれのような宝具を渡して無事に帰ってくるよう祈るという仕来りしきたりがあるんだ」


「……そっか。なら無事に帰って来ないとね」


 自分という存在に向けられた愛を受けて、心が少し晴れたような気がした。


 後のことは未来の自分に任せればいい。まずは家族との長い別れに向き合うべきだ。

 腕輪から視線を外し顔を上げると二人の笑顔が目に入る。


「学園でも頑張るんだよ、クロウ」

「いってらっしゃい、無事に帰って来てね!」


「うん、行ってきます」


 笑顔で別れを済ませる。


「乗り込みな、出発するぞ」


 シルド叔父さんの掛け声と共に帆が被せられた馬車の中へと乗り込む。

 そして、進む馬車の後ろから、二人の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。





 シシ村を出発してから3時間弱経った。


 シシ村周辺は平原であり最初の方は快適だったが、しばらく進むと馬車はだんだんと木々が乱立するデコボコ道を通り始めた。


 周りに生える木の根っこでガタガタと揺らされ、気持ち悪くなって馬車の外に顔を出す。すると、まるで森の中にいるような土と草木の混じり合った匂いがした。


「おいおい、大丈夫かよ。吐いたら楽になるぜぇ?」


 ワハハと笑いながら先程から話しかけてくるこの人は馬車の護衛、ロ―ヴィエルだ。

 カウボーイハットのような帽子を被っており、かなり軽装なのが特徴的。だが、心臓などの急所の部分だけは革ベルトにより守られている。


 いつもパーティで叔父さんの護衛を引き受けて村まで来てくれるのだが、今日は珍しくロ―ヴィエル1人だけのようだ。


「まあ、安心しな。そろそろ休憩場所に着く頃だからよ」

 

 その発言通り、5分も経たず休憩の場所にたどり着いた。。

 

 ふぅ、危なかった。吐きそうだわ尻が痛いわで散々な目に遭ったぜ。


 切り株に腰を掛けながら一息つく。


 ここは周囲の木が伐採されて作られた広場で、綺麗な川が近くを流れている。

 後2〜3時間も進めば定期的に手入れされているキャンプ場のような場所があるのでそこで昼ごはんを食べる予定だ。


 シルド叔父さんの方を見ると馬に水を飲ませた後、一緒になって休憩している。

 御者をしてるので邪魔をしまいと話しかけてなかったが今がチャンスだ。


 学園について父さんに色々聞いたが、叔父さんにも少し聞いてみよう。


 そう思って声を掛けようとすると、


――風が吹いた。


 森全体がざわめくような荒々しい風が吹き抜ける。だが、まるで台風の目のようにこの広場だけは一切の風が感じられない。

 そんな不思議な現象が起こる。


 一体何が……ッ!?


 地面に影が差す。

 即座に上を見上げると1人の女性が宙に浮いていた。その特徴的な姿、そしてこの場面によく似たシーンを俺は目にしたことがある。



 〈ユニファン〉。このゲームでは、キャラの持つスキルが戦闘バトル行方ゆくえを左右する。

 

 スキルは多種多様であり、

 

 火属性や水属性

 剣を使う、槍を使う

 強い、弱い


 とそれぞれに特徴がある。だが、その中でも強力なスキルの持ち主は貴族の生まれである事が多い。


 民を守るために戦う義務を背負った貴族。その義務を果たし特権を得るために、より強き血を追い求めた結果、貴族はさらなる力を手に入れた。


 だが、最強クラスのスキルとなると話が違う。血や遺伝により受け継がれる事は絶対に無く、圧倒的な才能を持つ者に与えられる。


 その力は


 〈空〉

 〈海〉

 〈大地〉

 

 そして今、目の前にいるあの女性こそが〈空〉を持つ者、ヴォント・スカイその人だ。



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