第2話 再び始まるプロローグ



 ――ハッ。


 意識が覚醒する。

 

 目が覚めた瞬間飛び跳ねるように身体を起こし、体内の魔力を無属性に変換。


 いつでも動ける姿勢のまま周囲の気配を探る。


 ゲームのタイトル画面を映したままBGMを垂れ流しているテレビ。


 視線を下げればスマホや小物などが乱雑に置かれている低めのテーブル。


 すぐ後ろには高級感のある赤いソファー。


 「…………?」


 ここは……俺の部屋だな。うん、どこからどう見ても俺の部屋だ。


 さっきのは、夢だったのか?



 ……そりゃそう、か。


 やっと今の状況に頭が追いついてきた。


 今から2年前、俺は魔王を倒し、この世界に帰って来ていたんだ。異世界転移したあの日――高校3年生の俺が夏休みを満喫していた日に。


 無意識のうちに発動していた身体強化魔法を解きながら、ソファーに沈み込む。


 ふぅ。いやぁ、久々だったから魔法を発動しただけで地味に疲れた。あの頃と比べて随分と鈍っているみたいだ。


 まあ、あの異世界で数年間鍛え上げた体は元のヒョロガリに戻っちまったし、この世界に戻ってからは魔法を使うことも無かったしでそりゃあ鈍るに決まってるよな。


 むしろ今更あんな夢を見るっていう方がおかしいと思うんだが。もしかして何か世界に危機か訪れる前兆ぜんちょうだったりするのだろうか。


 「……いやいや無い無い。もう俺の戦いは終わったんだ。後は残りの人生をのんびり楽しむだけだ」


 そうやって嫌な予想を振り切り、ゲームでも楽しもうと気持ちを切り替える。


 ゲームといってもテレビゲームにスマホゲームと種類は色々ある。そのなかでも今の俺のイチ推しは〈ユニファン〉というゲームだ。


 正式名称は〈ユニオン・ファンタジア〜女神の加護と選ばれし勇者〜〉というタイトルで、うん、そう、今テレビ画面に映っているゲームがそれだ。


 タイトルと共に光に照らされた白亜の城が映し出され、その場所から巨大な島全体を映すようゆっくりズームアウトする。

 そんなムービーがBGMと共に永遠と流れ続けている。


 付けっぱなしだったなんて電気代がもったいねぇな。寝落ちしたんだっけ?


 うーーん


 ……! そうか、そうだった。確か、生徒会長ルートに行ったら、学園の地下ダンジョンでボコボコにされて萎えて寝ちまったのか。


 いや〜そうなんだよな。〈ユニファン〉って面白いけど難易度がクソ高いんだよな。


 〈ユニファン〉の舞台はタイトル画面に映っていた巨大な島、ユーズ王国。

 主人公はその島で学園生活を送りながら鍛錬し、卒業後に各地を回って魔王復活まで準備を整える。そして復活した魔王を倒すまでがこのゲームのストーリーだ。


 グラフィックは超綺麗。戦闘システムはコマンドバトルで仲間にできるキャラも多い。

 そして自由度が高く、好きに攻略が出来る……と特徴は色々あるんだが、とにかく難易度が高くてラスボスにすら辿り着けない事も多い。


 パーティが全滅したら即ゲームオーバーで途中からのやり直しは出来ないし、ダンジョンはボス級のクソ強い敵が徘徊はいかいしてるし、魔王復活までの時間制限はあるし、となかなかに鬼畜だ。


 そのせいかプレイ人口も少なく、ネットにも攻略情報が全くない。


 面白いと思うんだけどなぁ。人気がなくて残念だ。どれだけすごいことをしても盛り上がれる仲間がいないって事だからなぁ。


 まあ、しょうがないか。


 ……俺が普及しようにも、そんな友達いないし。

 

 ま、まあ、これから人気になる可能性もゼロじゃないし。その可能性を信じて待ちながら好きに遊んどこう。


 タイトルからデータ選択まで移動。いくつかの以前クリアしたデータは放置して新規作成を押し、新たな物語を始める。


「さて今日はどんなチームを作ろうか」


 攻略のための計画を立てながら、だんだんとゲームへとのめり込んでいく。






 「いや強すぎねえか?」


 青みを帯びた石が精巧に積まれており、高度な文明を思わせる地下空間。

 学園の地下に存在するこのダンジョンで、パーティメンバー全員が死んでしまった。


 昨日よりも大分レベルを上げたんだがこれでも勝てねえの? 運営バランス調整大丈夫か?


 は〜〜っったく。

 

 つい運営に文句を言ってやりたくなったが、そんなことに意味はない、と自分をなだめて気持ちを落ち着ける。


 チッ。こうなりゃ次は魔王討伐ほっといて限界までレベル上げしてから攻略しに行くしかねえなァ。


 何がなんでも攻略してやろう、と早速リベンジしたい気持ちが湧いてくるが、スマホを見てみるといつの間にかもう夕方になっていた。

 今日はこのくらいにしておくべきだろう。


 しっかりテレビとゲームの電源を切った後、ソファーの上でダラけながらSNSを流し見する。

 そして、一つの情報が目にまる。


「ん? なになに、ユニオン・ファンタジア2の予約が今日から開始? ……えっ本気マジで!? いや、今の今まで知らなかったんだが? やばい、こうしちゃいられねえ」


 着替えるのが面倒なので部屋着の上から全身が隠れる黒色のコートを着て、かかとの潰れたシューズを履きつつ外に出る。


 ゲームのことで頭が一杯になり、自分でも分かるほど顔のニヤつきが止まらない。昔から楽しみな出来事イベントを意識すると気持ちが浮ついて、それ以外のことが疎かになってしまうんだ。






――そんな俺だからかもしれない。二度目の異世界体験をする羽目になったのは――






 まさか〈ユニファン〉の2作品目が作られているとは。もしかしたら、これからシリーズものとして人気が出てくるかもなぁ。


「フンフフンフフ〜――ッ!?」


 気分よく鼻歌を歌いながら歩いていると、身に迫る危険を感知。すぐさま目に映る世界が全てスローモーションのように感じてくる。

 反射的に魔力を体中に巡らせて身体を、目を、脳を活性化させる。


 おいおい、今は青信号だぞ!?


 横断歩道を渡っている俺のすぐ横には、いつの間にかトラックが迫って来ていた。


 この至近距離じゃもう避けれそうにない。


 体を一気に脱力させ、こちらに向かってくるトラックの衝撃を体で受け流す準備をする。

 

 今の身体能力ならかれて死ぬ心配は無い。むしろトラック側がブッ壊れてしまうだろう。


 まあ別に壊しちゃってもいいと思うんだが、俺も流石に気を抜きすぎてたからな。車体が少しヘコむくらいで許してやる。


 くのが俺で良かったな、と窓の反射で顔が見えない運転手への皮肉を考えながら衝撃の瞬間を待つ。

 


 そして


 俺は


 宙を舞った。


 ――は? なんでこんなに――――


 ……クソっ…………意識が……薄れて……




 だんだんと暗闇に沈む意識。その闇が明けて、目が覚めた時には


 俺は異世界に転生していた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る