元異世界勇者によるRPGモブ転生戦記

ヒカリ

序章 異世界帰りの勇者、ゲーム世界に転生す

第1話 エピローグなプロローグ?



 ……眠れない。


 空には星ひとつ見えず、月光は地上ここまで届かない。

 そんな闇夜に溶け込み横になる。

 

 ボロボロの黒いマントに包まれて、心地よい眠りの世界へと……旅立てない。つーかめっちゃ寒い。 


 焼き焦げ、溶かされ、穴が開いたところから風は遠慮なく侵入してくる。


 マントは旅の必需品であり、野宿の時は無いと寒くて眠れないんだ。

 だからボロボロになるたびに買い替えてきたのだが……たった数日でここまで傷を付けられたのは久しぶりだ。


 記憶にあるのは2年ほど前、炎に呑み込まれたあの時以来だろうか。

 

 懐かしい。そんな感情と共にあふれ出してくるのは後悔だ。


 

 ……みんな死んでしまった。


 別に、俺のせいじゃ無いんだけど。


 アイツらが無駄に意地張って、自分を貫き通して、死んでいった。

 まあ、ただの自業自得って奴なんだけどさ。


 ……それでも、アイツらには助けられた恩があった。生きていて欲しかった。

 

 今でも鮮明に思い出せる、仲間たちとの日々。

 


『やはり勇者キミの体はこの世界の人間私たちとは完全に別物のようだねぇ。ふふふふ、とても興味深い』


 勇者おれ隅々すみずみまで調べ上げ知識欲を満たす。そんな研究狂いの変態<賢者>。


 変態のくせに知識量と魔法の実力はトップクラスで、俺に様々な力を与えてくれた。

 臆病な俺が敵と戦えているのは全てあの人のおかげだ。


 魔人の解剖に失敗して爆死したけど。


 ……


『感謝など必要ありません。ですが私たちは神に選ばれたのですから、勝手に死なないように気を付けてくださいね』

 

 何度死んでも再生して神のため戦い続ける。そんな命さえ捧げる狂信者系<神官>。


 俺がどれだけ大きな傷を負おうとも必ず治してくれた、まさに命の恩人だ。

 

 敵に寄生されたから仕方なく燃やしたけど。


 ……


『ハッ、こんなもん、オレ様だけで十分だっての。だから俺に任せとけ』


 魔王なんざ自分だけで殺せると大口を叩く。そんな自信過剰な<暗殺者>。


 俺に索敵や隠密など、暗殺者としての技術を惜しみなく教えてくれた。

 背は小さいが、豪快で頼りになる男だった。

 

 罠に引っかかって喰い殺されたけど。


 ……


『貴様が望むのならば好きなだけ鍛えてやろう。弱者を救うのも騎士の務めだからな』


 敵相手だろうと正々堂々勝負する。そんな自分を貫く異端の<騎士>。


 アイツが戦い方を厳しく叩き込んでくれたおかげで、俺はここまで強くなれたんだ。

 ほんっとーに厳しかったけどな!

 

 後、敵に一対一の真剣勝負を挑んで最後はちりも残らなかった。


 ……

 

 ……ッスー……ふぅ~。


 

 ――居るな。


 クソな思い出のせいで叫びたくなったが、周囲に怪しい気配がある事に気付く。


 気持ちを引き締め、感覚に集中。


 5、6、8……続々と増えていってやがる。だが一定の距離まで踏み込んでこない。指揮個体が居るな。


 マントにくるまり横になったまま腰の剣に手をかける。そして魔力を無属性に変換し、体中に循環させる。


「身体強化」


 無属性となった魔力は筋肉に染み渡り、細胞を活性化させ、身体能力を強化する。

 


 そんな魔力の動きに気づいたのか複数の気配がこちらに迫ってくるのを察知。


 剣から手を離さずにゆっくりと体を起こし、正面を見据える。そして誰にも届かぬほどの小さな声で呟く。


「お前らは……敵か、味方か」


(そんなの決まっているじゃないか。――もちろん敵さ)


 全身に血が巡り、感覚がより研ぎ澄まされる。耳に届くのは風を切る音。肌に感じるのはヒリつくような殺気。


 目線を向けた先、茂みから飛び出してくるのは人型の狼――ウェアウルフとも呼ぶべき化け物だ。

 二足歩行に進化した脚で地面を踏みしめ、俺目掛けて鋭利な爪を振りかぶる。


「敵なら、殺す」


 しゃがみ、一歩踏み出して敵の大振りをスカし、剣を抜くと同時に胴体を切断。

 後から迫って来たもう一体も振り向きざまに切るッ。


 狼たちは血しぶきを撒き散らし、その場に崩れ落ちる。

 

 血の匂いが漂う。


 警戒し、俺を囲むように集う敵。そいつらを迎え撃つため剣を構える。

 

 ……来い。


 雲が晴れ、月光が差す。


 それをきっかけに次々と襲い掛かってくる敵たち。


 ウェアウルフはもちろん、巨大な熊や角の生えた馬、蛇の尻尾が生えたライオン。

 

 さらには、人型でありながら人とは全く違う異形の化け物。


 人々が魔人と呼び、恐れる存在――まあ、俺にあるのは恨みの感情だけだが――。そいつらさえ入り混じり、本気で俺を殺しに来る。


 休む間もないほどの波状攻撃をさばき続け、隙を見せた奴から仕留めていく。

 そんな中、背後から強大な気配が急接近してくるのを感知する。

 

 四天王以上の気配。まさか魔王か? チッ、今来るのかよ。


 周りの敵も、積み重なる死体も邪魔になる。


 ……この状況で戦うのは悪手だな。

 仕方ない。全部吹き飛ばそうリセットしよう


 維持していた身体強化の魔法をストップ。残った無属性の魔力で周囲に衝撃波を放つ。


 軽く吹き飛ぶ敵たち。


 その隙に、体内の魔力を一気に無属性と光属性に変換し――中心に溜め込むッ!



 一瞬の静寂。



 俺の魔力に圧倒されたのか動きが止まる敵。


 ……今動き出しても、もう遅ぇよ。


「バースト」


 溜め込んだ魔力を解放する。


 全てが吹き飛ぶ。


 近づいてきた敵も、周囲の死体も、全てが雪崩や津波かのように流れに呑み込まれていく。


 そして残ったのは俺一人。辺りは空白。

 やっと自由に動ける。


 気配を探り、上を見上げると満月――そして流星の如く降ってくる巨大な闇。


 魔王の姿が見えないほどの濃密な魔力だ。


 闇には光。


 空から降る闇の流星に対し、光の魔力を注ぎ込んだ剣を地上で構える。


 そして「一閃」。


 激突。――闇と光が反発し合い、衝撃が地を揺らす。魔力が飛び散り、前すら見えなくなり――




 

 ――ハッ。

 

 意識が覚醒する。

 


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