元異世界勇者によるRPGモブ転生戦記

ヒカリ

序章 異世界帰りの勇者、ゲーム世界に転生す

第1話 エピローグなプロローグ?




 眠れない。


 星ひとつ見えず、雲から漏れる月明かりだけが辺りを照らす。

 そんな夜に、ボロボロの黒いマントで体を包みながら横になっている。


 ただ、穴から風がもぐり込んできて少し寒い。

 マントは防寒具として必須なため旅の途中で何度も買い換えてきたが、たった数日でここまでの傷を付けられたのは久しぶりだ。


 明日も戦いは続く。休める時にしっかり休んでおきたいのだが。


 ……眠れない。


 遠くから聞こえる鳥の声。焚き火の後の煙臭さ。何もかもが気になって眠れる気がしない。


 こんな夜に思い浮かぶのはいつも後悔ばかりだ。


 

 ……皆んな死んでしまった。


 別に、俺のせいじゃないんだけど。


 アイツらが無駄に頑固だったから。アホな事しでかしたせいだから、完全に自業自得なんだけど。


 ……それでも、アイツらに助けられた恩があったんだ。生きていて欲しかった。


 今でも鮮明に思い出せる、仲間たちとの日々。

  

 勇者おれ隅々すみずみまで研究しようとしてくる変態<賢者>。


 変態のくせに知識と魔法の実力は国内でもトップクラスで、俺に戦うための力を与えてくれた。この人がいなければ敵に立ち向かうことなんて出来なかっただろう。

 

 魔人の解剖に失敗して爆死したけど。


 ……


 神に全てを捧げた狂信者系〈神官〉。


 俺がどれだけ大きな傷を負おうとも必ず治してくれた、まさに命の恩人だ。

 

 敵をいたぶっている途中に寄生されたから泣く泣く燃やしたけど。


 ……


 無駄に自己主張が激しいアホな〈暗殺者〉。


 俺に索敵や隠密など、暗殺者としての技術を惜しみなく教えてくれた。今俺が1人で生きていられるのもその時教わった技術のおかげだろう。

 

 罠に引っかかって食い殺されたけど。

 

 ……


 敵相手にも正々堂々を貫く異端の〈騎士〉。


 アイツが厳しく戦い方を叩き込んでくれたおかげで、俺はここまで強くなれたんだ。

 ほんっとーに厳しかったけどな!

 

 あと敵に一対一の真剣勝負を挑んで、最後は塵も残らなかった。


 ……


 …………ふぅ。

 

 ――居るな。


 クソな思い出のせいで叫びたくなったが、周囲に怪しい気配がある事に気付く。

 気持ちを引き締め直して、感覚を集中。


 5、6、8……続々と増えていってやがる。それに、一定の距離まで踏み込んでこない。指揮個体が居るな。


 マントに包まって横になったまま腰の剣に手をかける。そして魔力を無属性に変換し、体中に循環させる。


「身体強化」

 

 無属性となった魔力は筋肉に染み渡り、活性化させ、身体能力を強化する。


 その魔力の動きに気づいたのか複数の気配がこちらに迫ってくるのが分かった。


 剣から手を離さずにゆっくりと体を起こし、正面を見据える。そして誰にも届かぬほどの小さな声で呟く。


「お前は敵か、味方か?」


(そんなの決まっているじゃないか。――もちろん敵さ)


 茂みから飛び出してくるのは人型の狼。ウェアウルフとも呼ぶべき化け物。二足歩行に進化した脚で地面を蹴り一瞬で俺の前まで接近し、鋭利な爪を振りかぶる。


「敵なら、殺す」


 しゃがみながら移動して敵の大振りの攻撃をスカし、剣での擬似抜刀術で胴を切断。後ろから迫ってきた奴も振り向きざまに切る!


 剣を中段に構えて更なる敵を迎え撃つ。


 その戦いを皮切りに、様々な生き物が次々と襲いかかってきた。

 

 ウェアウルフはもちろん、クソ大きい熊や角の生えた馬、蛇の尻尾が生えたライオン。

  

 そして、人型でありながら人とは全く違う異形の化け物。

 人々が魔人と呼び、恐れているもの。まあ、今の俺的には恐れよりも恨みの感情の方が強いが。


 そんな魔人たちも混ざった異種混合群による休む間もないほどの波状攻撃を捌き続ける。

 そんな中、背後から強大な気配が急接近してくるのを感知する。


 四天王以上の気配。まさか魔王か? チッ、今来るのかよ。


 死体が山積みになって足場が悪くなり、敵が倒しにくい状況じょうきょうで襲われるなんて最悪だ。


 仕方ない。全部吹き飛ばそう。


 無属性の魔力への変換と体中での循環によって身体強化を維持していたが、ストップ。その魔力で周囲に衝撃波を飛ばす。

 

 同時に、体内の魔力を一気に無属性と光属性に変えて体の中心あたりに溜め込む。


 一瞬の静寂。


「バースト」


 溜め込んだ魔力を解放して、周りの死体ごと近づいて来た敵を吹き飛ばす。そして雪崩や津波のように周辺の敵も呑み込まれていった。


 周囲は空白。これで自由に動けるな。


 気配を探り、上を見上げれば闇が流星の如く降ってきている。あれが魔王のはずだが、魔力が濃すぎて姿が見えない。


 闇には光。


 空から降る闇の流星に対し、光の魔力を注ぎ込んだ剣を地上で構える。


 そして「一閃」。


 激突。――闇と光が反発し合い、衝撃が走る。魔力が飛び散り、前も見えなくなり――


 

 

 ――ハッ。


 意識が覚醒する。


 

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