行き違いのプロポーズ

ボウガ

第1話

 ある男性AさんはBさんからの連絡をまっている。何週間も連絡が途絶えていたし、普通に考えれば関係は終わったのだろう。しかし、腑に落ちない形の自然消滅だった。しかしAさんはBさんを責めたくなかった。常に自責の念にかられていたからだ。


 Aさんは足が不自由、おまけに合併症のせいで病気が重い日は仕事ができない。なんとかデザイナーとして仕事をし、親戚の助けもあって生きることができていたが、そんな相手として選んだのは、Bさんだった。


 有名な動画配信者であるBさんは、彼女の知り合いいわくいい意味で裏表のある人間だという。ズバズバモノを言い、動画は炎上気味になることもあったが、裏では本当に人がいいのだという。


 実際付き合い始めてそれは実感できた。ひどく人の気持ちがわかるひとだし、気が利く人でもあった。だからこそ、Aさんはこんな日が来ることを恐れ、くるだろうことをわかっていたのだ。

 

 SNSでの返事もこない。これで連絡も最後にしようと思い、メッセージを送る、やはり返事はない。あきらめて仕事にとりかかると、メッセージアプリにCさんから連絡がきた。

「久しぶりにあわない?」

 なんだろう、CさんはBさんとの関係をつないでくれた人だった。Cさんはあるバーに彼を案内し、Aさんの事を切り出した。

「どうやらね、気にしていたらしいのよ、自分の仕事や結婚のことを考えて、不安定な未来が待ってることを考えて、その、あなたと結婚を想定すると、仕事もままならなくなってね」

 たしかに、最近彼女の動画更新は停滞気味である。

「確かに、それは不安だろう、でもどうして?実際そんなことは、僕が関係してなくても起こりうることだ」

「ええ、そうね……それはそうなんだけど、その」

「ああ、君は迷惑だと伝えに来たのか、すまない、どうも自然解消的だったから、いつ別れがきたのかわからなくて……ああ、もうメッセージを送るのはやめるよ」

「そうじゃないわ、そうじゃない、断ってもないでしょ?今日は彼女の考えをあなたに伝えに来たのよ、あなたは、その、足が不自由じゃない?」

「ああ……そうだけど」

 Aさんは落ち込んだ。Cさんは差別意識などなく、彼の足に言及することはほとんどなかったのに、ここまで攻めなくてもわかれる決心はできている。そこで彼女の言葉を遮ってつづけた。

「そんなに攻めなくても、はっきりいってくれればいつでも別れられる、それに僕らは結婚などという話はしていなかったよ、そんなに将来の事に不安があるなら、別れるでも離婚でもなんでも、彼女の想像について話をしたよ」

 思いのたけをぶちまけると、やってしまったというようにCさんは落ち込んでいた。

「ああ、すまない、なんとも……自分が立場や状況悪いということがわかっていても、納得できなくて、頭が混乱してしまったんだ」

 Cさんは深呼吸をして、手の甲をいももなく顔の横でふると、話をつづけた。

「ええ……そうね、私がききたかったのは、その……まあ、つまりあなたが耐えられるかどうかってことだったんだけど……」

 Cさんの後ろから、変装して顔を隠している女性が現れる。それはBさんだった。マスクをとってつげる。

「ごめんなさい、いままでちょっと、ずっと悩んでいたのよ」

「何を?」

「あなたとのお付き合いが長くなってしまったから、そろそろ結婚をしようと思って、でも、憂鬱になって彼女に連絡をして……相談にのってもらっていたの」

 Aさんはめをふせようとした。だがその手をにぎって、Bさんはいった。

「私は、あなたと結婚したあと、あなたを支えきれなくなったらどうしようかと考えていた、昔から自分に自身がなかったし、他の仕事はうまくいかなかったから……」

 Bさんは、席に座ると、まっすぐAさんの眼をみた。

「そうね、でも解決したわ、まるで関係ないことから、正しい考えが理解できた、そう、私とあなた、結婚したとしても、離婚するかもしれないものね、そうすれば、あなたに愛想をつかされることもないわ」

 

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行き違いのプロポーズ ボウガ @yumieimaru

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