第11話:違いがわかる肉片

「……なんてベタな嫌われっぷりなんだ。リゼッタたんは何か悪いことでもしちゃったのかい?」


「そんなことするわけないでしょ……」


 リゼッタたんはすぐさま否定したけど、その言葉には村に来る前までの強さはすっかりなくなっていた。


 おどけて言ってみたけど、もちろんオレだってこんなに幼いリゼッタたんが村人に危害を加えるとは思っていない。いや、確かに世界征服は企んでいたけど、そんなのは小さいころには誰だって一度は考えるだろう。


「死体を操るネクロマンサーはどこに行っても嫌われてるのよ」


 リゼッタたんの額の傷は思ったよりも深いらしく、拭っても拭っても絶え間なく流れ出る血がリゼッタたんの可愛いお顔を赤く汚していた。あのクソガキども、ガチで許せねえ。


 それに、石をぶつけられて軽い脳震盪でも起こしたのか、それに、痛みや出血もあるのだろう、リゼッタたんの足取りは少しふらついている。クソぉ、オレに身体があればここでリゼッタたんをお姫様抱っこしてあげられるのに。


「ネクロマンサーってそうなの?」


「そうったらそうなの。だって仕方ないでしょ、死霊術なんて普通の生活には意味がないもの。死体が動くなんて不気味だし、教会の教えにも反してるし」


 まあ、確かに、普通のRPGで勇者のパーティには加わりそうにないジョブではいらっしゃるし、死体が動くなんてのは、もはやホラー映画でもおなじみの恐怖演出だ。恐ろしくないわけがない。聖なる教会の教えで死霊術なんてのはもってのほかだろう。


「けどさ、それでも、そんなことがリゼッタたんを傷付けてもいい理由にはならない」


 唸るようなオレの呪詛じみた言葉に、リゼッタたんはぴたりと足を止める。そして、リゼッタたんは足元の地面をじっと見つめ、そして、今までの過去を全部なかったことにするかのように、小さく声を振り絞った。


「アナタは知らないだろうけど、この世界では理由になるのよ。だから、おかあさんもおばあちゃんも」


「そんなんでオレが納得するはずがないだろ!」


「ッ!」


 あ、ごめんごめん、突然大きな声出して怖がらせちゃったね。でもね、おじさんはどうしても、リゼッタたんを取り巻くこの絶望的な現状を許せなかったんだよ。


 きっと、リゼッタたんはこの世界を、自身を取り巻く世界を変えようとした。そのためのきっかけがオレだっただけだ。だから、オレはリゼッタたんのために何もできない。


 何かをしようとしたのはオレじゃない、紛れもなくリゼッタたんだ。


 この状況を打開しようとしたのはオレじゃない、これもリゼッタたんだ。


 オレを助けるために旅に出ようと言ってくれたのは、そう、何を隠そうリゼッタたんなのだ。


 だから、だから――


「よし、リゼッタたんを苦しめるようなこんな村、オレが滅ぼしてやる!」


「は? アナタ、何を言って……」


 レアアイテムでしかないオレにはたして何ができるか、なんてわからない。むしろ、何もできやしない。こっちは頭だけしかないんですよ。


 でも、それでも。


「オレは君の力になりたい。君の世界を一緒に変えよう!」


「はあ? そんなの無理でしょ、だってアナタは」


「ふおおおおおおおおッ!!」


 リゼッタたんの言葉を遮ってオレは全力全開で昨日と同じように神経を集中させる。この世界に散らばった他の7つ(以上)の身体のパーツを探すんだ。掴もうぜ、オレのパーツ! この世はでっかい宝島! そうさ、今こそアドベンチャーだ!(?)


「オレはッ、リゼッタたんを泣かせるやつを絶対に許さないッ!」


「な、泣いてないわよ!?」


「君の心がさ、心が泣いているのが聞こえたんだ」


「キ……、泣いてないわよ」


「ねえ、今、キモいって言いかけなかった?」


 もはや幼女からの罵倒がご褒美になりかけているが、オレは生粋の江戸っ子なのでね(?)、そういう集中力を掻き乱すような不測の事態にも十分備えている。つまり、オレにはまだギリギリでそういう性癖はないから安心してほしい。こういうシリアスとコメディーのオンオフはきっちりしてる方だと自負している。今は……そうだな、どっちかというと、さてはシリアスだな?

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異世界肉片転生 ~異世界転生したオレ、まさかのバラバラ死体のままだし、肉片が絶対防御の素材になっていたので、ネクロマンサーの幼女と共に自分の身体を取り戻しにいきます~ かみひとえ @paperone

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