第6話:話す肉片、爆誕!

 そんなこんなでリゼッタたんのまだあどけなさの残る可愛らしい声に散々罵られて集中が途切れかけるも、なんとか踏みとどまりながら、オレのパーツをしばらく探していると、……お?


 すると、何かがオレの神経に接続された気がした。それが何なのかはわからないし、接続された、という奇妙な感覚はそれだけだった。


 とにかく、オレの身体の一部だ、神経が通ったなら動かせないわけがない! などという謎の理屈で、無理やりそれをこちらに引き寄せてみる。遠くにあるものに手を伸ばす、というよりは、奥歯に挟まった異物を舌で取り除けないか試行錯誤しているような感じだ。……たとえが下品すぎるな。つまり、オレにもよくわからん。


 しばらくそれを集中が途切れないように慎重にゆっくりと引きずっていると、なんだかそれとの感覚が次第に強くなっていく感じがした。というか、それでも、痛みを感じていないのだけは救いだと思う。もし痛覚あったら一瞬でショック死だ。


 そして――


「キャッ!?」


 不意に鳴ったドアの下の方から鳴る小さなノックに、可愛らしい悲鳴を上げたリゼッタたんがドアをおそるおそる開けると、ずるずると何か、いや、どこかのオレの身体の一部が床を引きずられている。……いや、ネクロマンサーって死体とか見慣れてるんじゃないの?


 左眼球をぐりゅんと向けると、それは2本の歯が刺さった歯茎の一部のように見えた。視界に入れば余計に接続が強まった感覚がする。


「あら、こんなに近くに【不死の肉塊】があったなんて信じられないわ! だから、おばあちゃんはこの森を……」


 リゼッタたんはオレの歯茎を人差し指と親指でつまんで拾い上げると、それをオレの頭部の横に並べた。そんな汚い物みたいに扱わないでほしい。こちらとしては不服だけど、一応レアアイテムなんですよ?


 なにはともあれ、オレの身体の一部が見つかったことでようやく話せるようになる可能性が出てきた。モザイクは依然として晴れることはないだろうが。


 けど、そもそもこれが歯茎の一部だとすれば、それを支える下顎がないオレの頭部とはくっついてない。本体である頭部とはバラバラのままになってしまうが、どうしたもんか。


 そう考えていたのはどうやらリゼッタたんも同じだったようで、そう考えるとオレ達は相思相愛なのかもしれない。うん、きっとそうに違いない。


「死体に魂を宿らせる死霊術じゃなくて、死体をそのまま操る魔法なら……」


 ぶつぶつ何かを考えるように呟いていたリゼッタたんが、不意にオレに向けて杖を向けて、間髪入れずに何かの魔法を一切の躊躇なく撃ち込む。もちろん、オレにはそれから逃れる術はないが?


 この幼女、オレのことをガチで完全に物扱いしている。まるで容赦ってもんがない。これはわからせ甲斐がありますねえ。


 すると、2本の歯と歯茎がおそらく元の位置にあったであろう下顎の場所でふわりと浮かぶ。オレに足りなかった何かがぬるりと身体に入り込んだかのような不思議な感覚。さては、これが本来のオレの身体に歯茎の分だけ戻った感覚か。虫歯に詰め物でもねじ込んだ感じだろうか。


 そして、なんだか今ならこのだらりと伸びた舌の奥から音を発することができそうな気がしてきた。

「さあ、早く何か言ってごらんなさいよ! さあ!」……リゼッタたんはなんなん?


「ひゅ、しゅ」これじゃあ、言葉というよりは、ただの空気の漏れだ。


 幼女に見下されながら煽られ、オレは言葉の発し方を思い出そうとするように一生懸命喉の奥を震わせてみる。だが、全面にモザイクが掛かるに違いない大きく露出した喉から出てくるのは、言葉以下の音とも言えないなんとも無様なものだけだった。いや、これ、舌も動かないし顎もないし、無理じゃね?


 そうして、オレが諦めかけたその時。


「はあ、やっぱりアナタなんかには無理だったのね、残念だわ」


 リゼッタたんの小さなため息と今まで以上に冷え切ったその眼差しがオレのナニか……違った、何かを奮い立たせた。


「リ、リゼッタたん、いっぱい、しゅ、しゅき」


「せっかく話せるようになって第一声がそれ!?」

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