12話 闇市3 卵 再蠢
アンダーグラウンドから話を聞き終わり店を出ると、先生は違う道から帰ろうと言ってきた。
おそらく来る時通ったあの娼館の前を再び通らないよう気を使ってくれたのだろう。
それはありがたいことだった。正直、今は魔術紋を刻んだ痛みとその魔術紋の効果を聞いてへきへきしていた。
壮絶な痛みを伴い、大きな希望を胸に抱き手に入れた魔術紋だが、その能力は僕を不安にさせるようなものだった。
アンダーグラウンド自身は応用の聞く能力と言っていたが、僕はこれでどうやって戦い抜けばいいのかが分からない。
本当に僕は、元の体を取り戻せるのかと思いながら、落胆の中先生の横で歩く。
周りには人がうじゃうじゃいて視界には酔っ払い達が、道行く人になにか喧嘩をうって、なにか大きく口を開いていいあらそってるようだが、僕にはそんな音さえ今は聞こえない。
それほどまでに僕の落胆は深くそして、抜け出せないものだった。まるで蟻地獄の巣に入ってしまったアリのように足掻いても足掻いても、希望という名の砂は落胆のそこに落ちていく、そんな気分だった。
「り…ーリ」
なにか近くで聞こえてくる。
「アーリ……おい、アーリ。」
「はっ、はい…えっ、えっと先生なんでしょう?」
「いや、店を出た時…というより店で話を聞き終わった時から絶望の底にいるような顔をしていたし、話しかけてもなんにも返さないから心配になったんだ。」
どうやら先生にはすべて、おみとおしってことらしい。
「気持ちは分かる。手に入れた道具をどう使えば良いかわからないことはよくある。だが、道具はただその用途だけで使うものでは無い。お前が手にした道具は応用がかなり聞くものだと思うぞ、私は。」
先生は僕を励ましてくれた。
「そうですね、応用生ですか…どんな風に使えるか前向きに考えてみますよ。」
そう答えると先生はすこし笑った。後ろ向きに考えたって何にもならない、今あるものをどうやって使えばいいのかそういうふうに前向きに考えていこう。
そう思った瞬間左腕が躍動する。
「うっ…」
思わず小さく声が出た。右手をそっと左の前腕にのせる。確かに躍動している。ドクンドクンと明らかに心臓が生み出す脈ではないことを感じる。
「アーリ、どうしたんだ?」
誰かが自分の名前を読んだ気がしたがそれが誰かも、なんのために呼びかけられたのかもどうでもいい…何かを感じる。今、向かっている方向からそれが存在しているのを感じる。それがなにかはわからない。
まばたきをゆっくりするが、次に瞼を開けた時には既に前方向に走り出していた。
後ろから誰かが名前を何度も呼ぶのが聞こえる。
走っている途中何人かとぶつかりどなられる。
しかし、そんなのは気にしていられない。
走れば走るほどそれに引き寄せられている感覚がしてくる。まるで何日も何も食べていない捕食者が獲物を見つけて我を忘れて追いかけるように、僕はそれにどんどんと近づいていく。
そして、僕は人だかりができているある屋台の少し離れたころからそれを見つけた。
僕は走る足を止めて、その人だかりを見つめた。
そうして20秒ほどして、いきなり誰かが僕の手を掴んだ。
驚いて後ろを見るとそこに立っていたのは先生だった。
先生は走ってきたのか少し汗をかいていたが、息切れなどは起こしていない。
「何を考えているんだ。ここでは離れてはいけないとホテルでいったではないか。」
先生は落ち着きつつも怒りを含めた声で叱りつける。
「先生、言いつけを破ったことは謝ります。
ごめんなさい……しかし、あれを見てください。」
そう言って、人だかりができている少し大きな屋台の方を指さす。
「あれか?あれは見たところ屋台式の賭場のように見えるが…」
屋台には『日本式丁半』と漢字で書かれているが、どんなものなのかはわからない。
みんな、ダイスをつかい『チョウ』『ハン』と言っている。
「あれは……金やそれに値する貴重な魔術素材をかけるタイプの賭場だ、それがどうした?」
「…あの屋台に置いてある魔術素材の棚の上から2段目横から5番目の素材を見てください。」
屋台には賭場の胴元がかけるための素材を入れるための棚がありそこにはなにかの動物の爪や黒くてての中におさまるほどのガラス瓶に入れられた液体など危険で怪しいものが多く置かれていた。
しかし、僕の目が今釘刺しになっているそれはその中でも異質だった。
そんな様子を見て先生は悟ったようだった。
「アーリ……あれなのか、あれがそうなのか?
あれの2つの黒い球がお前が取り込んだ『CELL』なのか?」
そう、その賭場には数日前に僕の体に入った『CELL』と同じものが2つあったのだ。
僕は先生と目を合わせそれを無言で肯定する。
「アーリ、どうする?あれが欲しいか?」
そんなの欲しいに決まっている。
僕の体を治すための希望。この死にかけの体を再び生かすための魔法。
何があっても絶対手に入れてやると誓ったんだ。
しかし、今まで見たところによるとあの賭場の胴元はなにかイカサマを使っているように思える。
さっきから賭けに勝って金を受け取る人はいるが、後ろの棚の素材は手に付けられた形跡がない。
おそらく、客も素材が手に入らないことを分かっていて金だけを目当てに賭けをしている。
その屋台の賭場を仕切ってるのは3人だ。
1人はダイスをなにか入れ物に入れて、賭けのディーラーをしている。
2人はそのディーラーの男の横に立ち、客を見ている。
多分、ディーラー以外の2人は客が棚から素材奪い取らないよう警備しているのだろうが、そんなことは滅多に起こらないのか、油断しているのがみてとれる。
そう分析して考えていると、何かが方にぶつかった。
「おい、ガキ。ぼさっと立ってんじゃねェヨ、ヒック…このスカタンネクラへっポコ野郎が、ペッ…」
ぶつかってきたのは酒瓶それぞれ1本ずつ持ったガタイのいい酔っぱらいだった。
自分からぶつかってきて謝らずに、唾を僕に吐き捨てるとは、少々…いやかなり腹が立った。
(僕もさっき人に当ぶつかった時謝らなかったが…)
その男はガタイは良かったが、千鳥足でなんで歩けるのか不思議なほどだった。
しかし、その時、閃く。
「いひっ、いいこと思いついたぞ。」
「アーリ、お前ものすごい悪い笑顔を浮かべてるぞ…」
先生の言葉に耳をかさずに僕はゆっくりと酔っ払いに近づき、後ろに張り付く。
そして賭場の屋台の横に男が近づくと誰にも気づかれないように早くそして全身の力を込めて一気に屋台めがけて男を突き飛ばした。
「うおっおぉぉぉぉぉぉぉ…」
酔っぱらいは情けない声を出しながら千鳥足で屋台に盛大に突っ込む。
その勢いによって、賭場のディーラーは酔っ払いによって大きく弾かれ、その酔っぱらい自身は『CELL』がある棚に突っ込み棚を倒した。
ガラスが割れる音、や弾かれたディーラーの怒る声、客の同様 様々な音が辺り一面に広がる。
そのうちに僕は屋台の前の客に紛れる。
「なっにしてんだ、この飲んだくれブタ野郎が、俺たちを舐めてんのかてめぇ!!お前の体を88に引き裂いてベーリング海にまいてやってもいいんだぞ、このスカタン野郎がァ。」
吹き飛ばされたディーラーが余程イラついたのか酔っ払いに対してそういうと、酔っ払いはさっきの千鳥足はどこにやら、そのまま走って逃げていった。
「いや、大変でしたね。」
僕はそういいながらディーラーの前に棚から落ちて転がっていたなにかの爪や緑と赤の色を放つ八面体の宝石を置いた。
「これ、屋台の影に転がっていたので拾っときました。
それでは…」
そう言って僕はその屋台から離れようとする。
しかし、
「おい待て…」
僕の左腕を棚の警備に当たっていたうちの一人が掴む。
「今、あのデブがここに入って棚を倒した後、お前がこのローブの裾に入れたものを出してもらおうか。」
屋台の周りの空気が変わる。
先程までの騒から一気にあたりは静まり返った。
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