10話 闇市1 運命Ⅱ

扉の先に待っていたものは先程までの静かな世界とは真逆の別世界。

多くの人の賑わいと屋台と建物が入り乱れる混沌の世界だった。

ここは地下のはずだが、至る所に大きなライトが設置されていて、昼間のように明るい。

周りからは

『博打うっていかないかい!』

『お兄さん、可愛い子いるよ。』

『非合法な魔術触媒 素材 なんでもそろってるよ。一度はよっていきな。』

などの声が聞こえてくる。

「行くぞ、アーリ。さっきのこと忘れるなよ。」

と言って先生は歩き出したので、急いで先生に追いつき横で歩く。

「先生ここが『闇市』ですか?」

「そうだ、広さは7万ha、世界でも5本の指に入りヨーロッパでは2番目の広さをほこるロシアの闇市だ。」

「7万ha(東京二十三区より広いん)ってそんなに広いんですか!」

「表社会では魔術協会の目が厳しくて行うことが出来ない商売がここでは行われている。

非合法でも需要があるものはここに集まってくる。その結果、これほどまで大きく成長していった。」

「ここのどこかに『武器』を買う店があるんですか。」

辺りを見回すと、店や屋台にはそれぞれに看板がかかげられている。

読めない文字もあるが、看板に描かれている絵によって何を売っているのかはだいたい予想できた。

とくに多いのは 魔術素材屋 ギャンブル店 …そして

娼館だった。

中には何やら魔術を使う時に消費魔力をできるけ少なくするための魔術杖を売っている店や、貴重な魔道具を売っている店もあった。

「先生、もしかして、『武器』って魔術杖とか魔道具だったりします?」

「違うぞ。」

聞いてから一瞬でそう返された。どうやら、『武器』とはそういうたぐいのものでは無いらしい。

「先生…」

「なんだ?」

それはとある店の前を通ろうとする時だった。

「ひとつ聞いてもいいでしょうか。その、この店はどんな店なのでしょうか?」

僕が指さした建物には看板には英語とフランス語で『子供屋』と書かれていた。想像するに誘拐してきた子供を売っているような場所なのだろうが先程まで見てきた店と違いその店は異質を放っていた。

「『子供屋』か… あんまりいい話じゃないぞ。あれはな魔術師の家の当主が妻との間に後を継ぐに足る子どもができなかった時に、いい跡取りを作るために利用する場所だ。」

「それって…」

「働いてるのは男女両方いるが、そのほとんどは没落した魔術家の家で身売りされたもの達だ。なかには誘拐された一般人で魔術の素養があるもの達もいる。」

『子供屋』の説明をされてやるせない気分になる。

フードを少しあげその建物に耳を澄ますと中から叫び声が聞こえる。

『助けて』『帰りたいよぉぉぉぉ』『もう、死にたいんだ…』

悲痛な叫びがきこえる。

だからといってどうすることもできない。そう考えていると背中を優しくたたかれたように感じだ。後ろを振り向くと先生がもう行くぞどジェスチャーをしていた。

『子供屋』の前を去り、しばらく歩いていきある娼館の前を通り過ぎようとした時、

「そこのプラチナブロンドの男の子、あなた、私のステラでしょう!!」

甲高く大きな声が後ろから突然聞こえビクッと驚き、僕はプラチナブロンドの髪なので呼び止められたと思い反射的に声の方向を見る。

その娼館は建物の前面に鉄格子があり中から何人もの女性を見ることができるようになっていた。

(日本の遊郭を想像してもらえばわかりやすいだろう。)

その中で鉄格子から出ている腕に目がいった。

鉄格子の前に行くと、その腕は細く少し骨ばっていて持ち主は35歳程の女性のように思われ髪はプラチナブロンドだった。

その女性は僕を見ると涙を流した。

「あぁ、やっぱり私のステラだ。もう何年ぶりだろう。フードを脱いでもっと私に顔を見せて。」

さっきの甲高い声とは裏腹にその声は落ち着いていた慈愛に満ちていた。

その女性は鉄格子の隙間から僕のほうに腕を伸ばすが、その腕が僕に届くことがはなかった。

「お前何やってるんだ!!」

「うっ、いた…いッ。」

小太りな男が僕に伸ばされた腕に鞭を叩きつけたのだ。

女性は鉄格子の中で痛みに悶えている。

「すいませんね、お兄さん。こいつはなんでもある魔術家の使用人として仕えていたらしいんですが、数年前、私のところに売られてきたんです。最近は精神を壊しちまって、よく妄想じみたことを独り言のように喋っていて気味が悪いんでそろそろ切り時だと思ってるんですよ。」

おそらくはこの娼館の従業員なのだろう、聞いてもないことをペラペラと喋る男だと思った。

「それよりあんた、たまってないかい?お詫びといっちゃなんですが、安くしておきますよ。」

「いや、僕は…」

「すまない、そいつは私のつれでな、今急いでいてそんな時間はないんだ。」

先生は僕の横でその男に大して少々威圧的な声でそういった。小太りな男はそれによって後ろにたじろきつつも、顔に笑みを浮かべた。

「そうでしたか。なら今度機会があった時に起こしくださいよ旦那、安くしておくので。」

彼はそう言い終わるやいなやすぐに店の奥へと引っ込んだ。

先生は鉄格子の中でいまだ、震えている女性に一瞥すると僕に行くぞ、と言って娼館の前から立ち去り、僕もそれに続く。

「行がないでズテラ、もっどもっど顔を見ぜでよぉぉぉぉ……」

女性は去っていく僕な向かって呼び止めた時と同じくらい、いやそれ以上に大きな泣き声で叫んだ。


……………………………………………………………さっきの娼館を通り過ぎてから僕たちは闇市内を走るバスに乗っていた。

先程から僕と先生の間で会話がない。

気まずい雰囲気が流れている。

周りの席では酔っ払いが何人かいてうるさく騒ぎ立てているが、僕たちの間には沈黙がただある。

そんな沈黙を破るように先生は話し始める。

「助けようと思ったのか?」

「…」

「『子供屋』によって何も知らないもの達が無理やり訳も分からず働かせられる。当主が遊びで使用人に手を出しその口封じとして闇市の娼館に売られ精神を壊し一生を終える。ここではよくある話だ。」

「……」

「ここは『闇市』まさに、魔術の世界の闇が集まり生み出された場所だ。人が人であるかぎりこのような場所はなくならない、そう割り切るしかない。」

「………」

「アーリ、お前の気持ちも分かる。そのやるせない気持ちはよく分かる。だが、世の中どうにもならないことを知れ、この穢れきった世界を一度受け入れるしかない。」

「…………」

バスが止まりおりる。そして少しあるきとある店の前でその足取りをとめる。

「しかし、ここでしか得られないものもある。アーリお前の死の運命は今からここで変わる。」


その店の看板を見る、

そこには『アンダーグラウンドの魔術紋店』

と書かれていた。

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