8話 行き先不明
「お客様の身になにも起こらないことを従業員一同祈っております。」
ウェイトレスはそういうとレバーを下げた。
ガチャンという音がレバーから聞こえたと思えば、
ギギギッと錆び付いた機械が動くような音がして部屋が揺れ始めた。
「なっ、何が起こってるんですか?!」
その異常事態に思わず立ち上がるが、横で先生は何事もないような顔でカバンから本を出して読んでいた。
次の瞬間、部屋の僕たちがいる部分だけ床ごと下にゆっくりと降下し始めた。
「先生、これはどういうことですかッ!?」
「言っただろう、武器を買うと。今からその場所に行くための乗り物がある所まで行くんだ。
それよりあまり椅子から立たない方がいい、すぐ座りなさい。」
乗り物のある場所? ここはただのレストランでは無いのか…
そんな疑問を浮かべている間に動いてる床は既に僕の身長の2倍くらいの高さを降下していた。
もう既に横を見ても部屋の赤い壁は見えなく見えるのは金属製の冷たい壁だけだった。
色々先生に問いたいことはあるが、まずはその乗り物があるとかいう場所につくまでは何も聞かないことにした。聞いたところで見るまでは理解できないだろうし。
床が降下し始めておそらくは10分ほどたった時、床は静止した。
僕たちの前にあるのは金属の壁とそれからソビエト連邦とロシアの国旗のマークが描かれている銅色の扉だった。
「アーリ、ここでカナダで買ったローブを着なさい…フードも顔をほとんど隠せるほど深く被るように。」
そういうと先生は自分のカバンからローブを出し着替え始めた。
僕も自分のスーツケースから買ったばかりのローブを出してシャツを脱いで着替えた。
2人とも着替えた後に深くフードを被った先生は扉のノブに手をかけて、ゆっくりと扉を開いた。
扉の先には駅にプラットフォームが広がっていて、目の前にはSLのような形をした鉄道が既に停車している。
プラットフォームはピカピカに清掃されていてゴミ1つ落ちていなく、人は少なかったが、全員僕たちと同じように黒いローブを着ている。
なぜこんな風景が広がっているのかを考えているうちに赤いローブを羽織り首から懐中時計をたらした男が僕たちの目の前に現れた。
「お待ちしておりました。こちら一等車両のチケットとなっております。それでは良い旅を…」
その男はそういうと2枚の金色の文字でロシア語でなにか書かれた黒の長方形のチケットを渡して素早く去っていった。
「先生、なんでレストランの下に駅があるんですか?ロシアにも地下鉄道があるのは知っていましたが、これは多分それではないですよね。」
何も答えずに、先生は周りを見渡してから鉄道の方を見ると僕の方を向いた。
「まずは鉄道に乗ろう」
……………………………………………………………
現在時刻 14時00分 (出発まであと30分)
僕たち2人は鉄道に乗った。まだ出発まで時間があるせいか僕たちが乗った車両には誰もいなく、また窓もひとつもなかった。
車両には乗り込む扉は前方にひとつしかなく、僕たちが座ったのは1番後方の席だった。
席はふかふかでとても座り心地がよく、これは一等車故なのだろう。
「アーリ、まだこの車両に人がいない今のうちに話しておくことがある。この鉄道は何でどこにいくのかも話しておく。」
隣に座る先生は話し始め、僕が先ほどした質問に答えてくれるらしい。
「まず、上のレストランは隠れた名店として少数の人間に料理を提供している店だが、元々は魔術師達がこの駅に行くための入口だった。今では食事をした後に合言葉を言ったあとに相応の代金を払うことでこの駅に案内してくれている。」
「合言葉ですか?」
「『シェフに会いたい』という内容とウォッカを頼むこと、そしてウェイトレスの性別を2度間違えるのが合言葉だ。」
つまり先生はあのウェイトレスの性別をわざと間違えたのか。
「次に、この鉄道はどこに行くかだが…私にもそれは分からない。」
「分からないって…どういうことです?」
「駅員以外誰も分からないんだ。この鉄道は毎回辿る線路が違う。窓もないからどこにいるのかも分からない。最も地下を走るのだからどこを見ても真っ暗だが…」
先生の言っていることがますますわからなくなってきた。なら僕たちはどこに行くかも分からない鉄道に何をしに行くのだろうか。
そんな疑問を察したのか先生は続けて話す。
「この鉄道はどこに行くのかは分からないし、途中下車はない。しかし、行く場所で何が開かれているのかは毎回同じだ。」
そういうと先生のフードで隠されていない口がニヤリと笑う。
「アーリ…私達が行く場所で開かれているのは『闇市』だ。そこにお前がこれからの戦いを生き抜くための武器を買う。」
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