7話 ウェイトレスとウェイター

しばらくすると僕と先生は料理を食べ終わり、どちらもスプーンを皿の上に置いていた。

ちょうどその時になって先程のウェイトレスがウォッカが注がれたグラスとカットされた3切れのレモンが乗った小さな皿を持ってきて、先生の前に丁寧にされど素早く置いた。

先生は厨房に戻ろうとするウェイトレスを呼び止めて…

「ウェイター、今日の食事はとても素晴らしかった。こんな素晴らしい料理を作ってくれたシェフにお礼を言いたいのだが大丈夫かね?」

そう、フランス語で話した。

ウェイトレスは先生にそう言われたあとなにも言わずに厨房へとかけあしで戻ってしまった。

「先生、あのフランス語で話してましたよ。多分あの人フランス語話せませんよ…それとあの人、男性じゃなくて女性ですし…。」

そう言っても先生は何食わぬ顔でカットされたレモンを絞りその果汁をウォッカにそそいでいた。

「いや、いいんだよあれで。」

「いいって何がです?」

「まぁ、少し待てばわかる。」

何がいいのか僕にはさっぱりだったが、目の前の男はただゆっくりとグラスの中の氷をゆらしてウォッカを口に含んでいた。


少しあと先生がグラス一杯のウォッカを飲み終わった時、あのウェイトレスは戻ってきた。

そして僕たち2人を見ながら口を開いた。

「シェフがお客様の言葉に感激し、ぜひお会いしたいとのことです。少しあちらの部屋でお時間よろしいでしょうか?」

僕は驚いた。なぜなら今までロシア語しか話せず、さっきの先生の言葉にも答えられなかった、目の前のウェイトレスが突然、流暢にフランス語を話し始めたからだ。

僕は先生の方に目を向けると、彼は少し口に笑みを浮かべていた。

「もちろん大丈夫です。お願いします。」

そして今までほとんど表情を変えていなかったウェイトレスは満面の笑顔を浮かべ、話を続けた。

「承知しました。お客様、それと私はウェイターではなくウェイトレス。女性ですよ。」

「いや、あなたはウェイターだ。その方がいい。」

「なに余計なこと言ってるんですか先生!!」

今まで、黙って見ていたがさすがに今の発言は失礼すぎたのでついに声がでてしまった。

ウェイトレスの方を見ると彼女は今も変わらず笑みを浮かべているが、その笑みの真相はいかに。

「では、ご案内します。」

ウェイトレスがそういうと先生は立ち上がり僕も椅子から立ちスーツケースを掴んだ。


ウェイトレスに続いて厨房の横にある部屋に入ると、そこは床に赤いカーペットがしかれ壁は赤色に塗られた部屋だった。

中にはさっきと同じような椅子が2席並べられていてその他には照明器具が少しと、なにかのレバーのみがあった。

「お客様、そこの椅子にお座り下さい。」

そう言われたので先生と僕はそこの椅子に腰掛けた。

「お客様、先にお会計15000ルーブルとなります。」

ウェイトレスが先生に近づきそういうと先生は財布から15000ルーブルを出して次に100000ルーブルをウェイトレスにわたした。

「これはチップだ。一等級のサービスを頼むよ。」

受け取ったあとウェイトレスはニヤリと口元を歪め、レバーの横にいきそれに手をかける。

「それではお客様、本日はご来店誠にありがとうございました。良い旅をそして…」



「お客様の身になにも起こらないことを従業員一同祈っております。」

そういうとウェイトレスはレバーを一気におろした。

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