4話 ロシアへ
ロシア ウラジオストクにて
僕は今ウラジオストクから出るどこに行くのかも分からないような地下鉄に、顔の前も見えなくなるほどすっぽりと黒色のローブを被っている。ローブのフードを少し上げて周りを見渡すと今の僕の姿と同じような人達が数人この車両の席に腰かけているのがわかる。
「フードを今すぐ深くかぶれ。」
隣の席に同様にローブを羽織座っていた男、すなわち先生がそういうと返事をするまもなく思いっきりフードを被せられた。
「痛いじゃないですか、先生。」
「できるだけ喋るな、周りを見渡すな。まだ到着まで時間はあるから少し眠って疲れを癒せ。」
鉄道はどんどん走っていく。1つ前の車両から車掌なのだろうか、紅色のローブを羽織った男?フードで隠れてて分からないが、おそらく男が乗客の乗車券を確認しているのが見える。
僕はその光景と鉄道と線路が奏でる規則的なガタンゴトンという響きを感じながらカナダの家からここまで来るまでのことを思い出す。
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戦いに身をおくという選択をした時、先生から武器を買いに行くと行って連れ出された。
先生が運転する時代遅れ…味のある自動車に乗って自分たちが今どこに向かってるのかを聞いたが次の瞬間耳を疑った。
「ロシアだぞ。」
「はっ?」
「だからロシ……」
「ちゃんと聞こえてますよ!だから『はっ?』て言ったんですよ。」
いやロシアに行くのはいいとしてそもそも、僕が驚いた理由はもうひとつある。
「僕、パスポート持ってないんですが、そもそもカナダの国籍も偽造ですし。」
そう僕はパスポートも持っていないしなんなら戸籍も偽造、名前も偽造だ。
「どうやってロシアまで行くんですか?」
「そんなの決まってるだろう。不法入国に決まってるじゃないか。」
先生は恐ろしいほど淡々に話すが、自分が何を言ってるのか理解しているのだろうか。
「それって犯罪では?」
「元々、戸籍を偽造した時点で犯罪だ。それに私が拾ってくるまで違法薬物に手を出し、盗みで生計を立ててたやつが今更犯罪なんて言い出してもなぁ。」
それをいわれればなにも言い返せない。僕は小さくため息をつき続けて質問した。
「ではどうやって、飛行機は使えないですよね?」
「まず、我々はカナダ第3の都市であるバンクーバーに行く。そこに私が所有するクルーザーがあるのでそれを使ってから大圏航路でロシアのウラジオストクに向かう。」
「クルーザーって…先生って何者なんですか?」
「その話はまた今度帰ってきてからにしよう。とりあえず、これで公共交通機関を用いずに不法入国できる。バンクーバーからウラジオストクまで約7500kmだから何事もなければ、私が改造したクルーザーでまる2日といったところか。」
先生が言い終わったところでちょうど自動車はある店の前に着いた。
看板からして服屋なのだろう。
「アーリ少し待っていなさい。」
そう言うと車をでてその服屋?の中に入っていった。服屋は木造で今にも崩れそうだった。
10分くらいして先生はなにか袋を持ちながらみせからでてきて、車の運転席側に乗り込み僕にその袋を手渡した。
「なんですか、これ?」
「ウラジオストクに着いた時に着るための服とローブだ。あそこの店主は魔術師ではないが、魔術師用のローブを作っている。」
中身を見ると黒い頭まですっぽり入るほどのローブが入っている。
こんなもの使うのだろうか。
「さて、バンクーバーまではずっと車だ今のうちにゆっくり寝ておいた方がいい。」
「ゆっくりと言われてもこんな車の中では…」
「お前船酔いしたらどうするんだ?」
記憶の中では僕は船に乗った事は1度もない、だから自分が船酔いするのかはわからない。
言葉に詰まってしまった。
「もしものこともある今だけはちゃんと眠っていないさい。」
そうして自動車のタイヤは回り始めた、バンクーバーに向けて。
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結局、バンクーバーに着いたあとは先生のクルーザーに無事乗ることはできたが、最悪なことに僕は船酔いするタイプだったらしい。最初は嘔吐が止まらなかったが、途中から出すものがなくなったのか嘔吐は止まった。
1日目は『CELL』を取り込む前と同じくらい悪い気分だったが、まだ安全だった。
2日目の途中ロシアの巡視船に見つかって、追いかけ回せれつつ発砲され続けた。先生のクルーザーでなんとか切り抜けたが、1年しかない寿命がさらに縮んだ気分になった。
2日目に逃げ回った結果、航路がずれ結局ウラジオストクまでまる3日かかってしまったが、何とか無事に着くことが出来た。
初めて銃弾がそばを通っていく音を聞いたが生きた心地がしないとはあう言うことなのだろうと今思う。
ウラジオストク港に入るときはしれっとクルージングしてるようにみせて不法入国した。
ロシアだからという理由でウラジオストクは寒いのかと思ったが、予想外に暖かかった。後に先生に聞くと、ウラジオストクは、ケッペン?の気候区分でDw気候といって夏のいまは25℃以上になるときもあるということだった。
クルーザーをおりたあとは着てきた青いシャツの袖を上げつつカナダで買ってきたこの時期に会わない分厚いフードがついたローブ(魔術師には夏服の概念がないんだろう)などをいれたスーツケースを引っ張り先生の後について港からウラジオストク駅まで移動した。
ウラジオストク駅 開業から100年以上の歴史を持つシベリア鉄道東端の終点にして始点で、
駅前広場にはレーニン像が立っている。
本では読んだこともあるし写真も少ないながら見たことはあるとはいえ、本物のウラジオストク駅の重厚さと古風な雰囲気をかもしだすデザインに少し圧倒された。
夏場で観光シーズンだからだろう他国からの旅行者もそれなりにいて駅は混雑していた。
鉄道に乗るのかと思ったが先生は駅には入らず、駅近くに止めてある黄色いタクシーのそばで休憩中の美しい金髪を後ろでまとめたタクシー運転手の女性になにやらはなしかけていた。
僕にはなにを話しているのかわからなかったが、おそらくロシア語で話していたのだろう。
話終わると、女性は運転席に戻り先生と僕はタクシーの後ろ座席に乗った。
そこからタクシーが出発して5分ほど経った頃にタクシーは建ってから50年以上は経っているだろうところどころ染料の茶色がはげているアパートの前に止まった。
タクシーの運転手とともに降りると運転手はアパートのドアを2回弱く 5回強くノックしなにやらフランス語とも英語ともちがう言葉で話している。
それはロシア語でもなさそうだった。
聞いた感じではイタリア語に近いような気がした。
その後1分くらいしてからだろうか。
ドアの内側からガチャガチャとした金属音のようなものが聞こえたあと、その古いドアが油をさしていないのかギギィという音を立てつつ開く。
運転手の女性はドアが開くのを見届けたあと先生から金をもらいタクシーに戻り、去っていった。
「行くぞ…」
先生はドアの向こうの暗闇に向かいながら僕にそう言い、僕はそのまま重いスーツケースの車輪が音を出し振動するのを感じながら先生に着いて行った。
to be continued
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