3話 『希望ある闘争』
「それはどういうことでしょうか?」
希望 安寧 闘争? まだ話の本題にすら入っていないのにも関わらず僕はよりいっそう困惑していた。
「ひとつずつ答えよう。まず、アーリ お前が昨日見たものについてだ。以前、魔術について教えたとき『魔法』について教えただろう。復習テストだ、『魔法』とはなにか答えてみろ。」
質問したのはこっちなのに質問され返されてしまった。
『マホウ』確かにいつだったか先生に習った。あれは1ヶ月半前だっただろうか?その時のことをできるだけ細かく思い出して答える。
「『魔法』…それは現代の科学と魔術では実現できない現象…でしたっけ?」
「50点。」
「採点厳しィ!」
「具体例を上げれば100点だった。いいか復習だ。まず、前提として『魔術』でできることは『科学』でもできてしまう。逆もまた然り、『魔術』と『科学』は対極に位置しているようで法則性に従うという面では同じだ。ポットで水は温められるし、魔力を用いても温められる。水を温めることのみに注目すれば消費したエネルギーは同じだ。しかし…」
先生は言葉を含んだ。
「しかし、例えば『完全なる死者の蘇生』は現代の科学でも魔術でも不可能だ。こういう現象は魔法に成りうる現象…誰か1人のみが魔力でなしとげた時それは『魔法』となる。ゆえに同じ『魔法』を使える魔法使いは常に1人までだ。」
先生の再講義を聴きながら理解しようとするが、いまいち『マホウ』というものがつかめない。これでも噛み砕いているのだろう。
「そして、これからが本題だ。現在、世界中の魔術やその他の稀有な能力、魔術的な遺物を研究 秘匿 発掘する機関『魔術協会』によって魔法と認定されているものは7つ存在する。つまり世界には7つ以上の魔法が存在している。」
「魔術協会が認定しているのは7つだけなのになんでそれ以上の数の魔法が存在するんですか?」
「魔術協会に所属 登録されていないいわゆる『魔術使い』や『フリーランス』とよばれるものたちが魔法を持っていることがあるからだ。実際、私もそのような『魔法と認定されていない魔法』を見たことがある。魔術協会としてはそれを魔法と認めるのは威信に関わることだからな。」
先生はテーブルの上にあるコーヒーを1口のみ、二口目を飲んだあと再び話し始める。
「話が逸れてしまったが、ここからはお前にも教えてないことで、1つ目の答えの根幹となるものだ、よく聞いておきなさい。
魔術協会が認定されている7つの魔法。私が知っているものは4つ。
『ORIGIN
「ちょっとまってください。『魔法使い』が存在していないってどういうことですか?」
魔法があるのならばそれに対応する魔法使いも存在すると考えていたが、先生の言い方ではそれは間違いのように聞こえるが一体どういうことなのか。
「魔法使いの一部は自身の功績、研究を時代に残そうと『魔法』自体をなにか物に移したものたちがいて、そういう『魔法』は所有者にその魔法を使えるようにしたりまた魔法が他の生物に取り付いて再顕現する、もしくは封印されることがあるらしい。私も魔法の専門家ではないから詳しい方法は知らないが……
話を再び戻すが、昨日 アーリ 君が見て触れたものは魔法『CELL』…いや封印がとかれ『CELL』の一部だ。」
「そうですか……」
「なんだ、あまり驚いていないな。」
「いや、十分驚いていますよ。」
今までの話から予測はついていた。しかし、分かっていたとしても自分には全てを理解して納得できるようなものでは無い。『魔法』その存在は壮大すぎて先生に教えてもらってからそれについて考えることもなかった。
ゆえに昨日、僕が見て触れたあの黒い玉が魔法の1部と言われても現実味がわかない、薬物依存性の後遺症である幻覚だと言われたほうがまだ信じられるというものだ。
「2つ目の答えに移ってもいいか?」
そうだ、まだ話の途中であった。
僕は再び先生の座っている方向を見る。
「しかし、さっきまでの話はそこまで重要な話では無い。重要で残酷なのは次の話だ。」
「私も詳しいことは知らない……『CELL』は封印されていたと言ったが、今まで『CELL』の封印が解かれたのはここ150年間で2回ある。
なぜ『CELL』が2回も封印を解かれたのかはわからないが、問題はとかれたあとだ。」
そういうと、僕をさっきまでよりも強く厳しさを含む目で僕を見つめた。
「そう、後が問題だ。封印をとかれたあと『CELL』はバラバラになり世界の至るところに飛び散るそうだ。そして、それを見つけださせて、見つけた人間を宿主にする。
『CELL』を宿した人間は世界中の他の『CELL』を見つけ出したものと戦い最後に残ったものが新たな魔法使いとなる。そういうふうに記録が残っている。」
つまり、それは『CELL』の一部が僕の体の中に寄生しているということだろう。
「お前には今、『CELL』が10個宿っている。このままではお前も魔法を巡る戦いに巻きこまれるだろう。」
「取り出すことは、できるんですか?」
「おそらく、そのままでは無理だろう。
『そのままでは』っだ。
だから提案だアーリ……
おそらく『CELL』が宿っているのはお前の左腕の部分、そこを切断してどこかに捨てて平穏にあと一年暮らすかそれとも激しく残酷な戦いに身を置くか。『希望なき平穏』か『希望ある闘争』か選べ。」
「ふふっ、ハハハッ。」
僕は先生の矛盾する言葉に笑ってしまう。そんな残酷な戦いに身を投じるのに『希望ある闘争』表現としてはおかしい。でも僕にはわかる、先生の言葉の意味が理解出来るし納得出来る。
「先生、聞いてくださいよ。
今日、朝起きたらいつもより気分が良かったんですよ。いつもは悪いか最悪のどっちかのに。
昨日した軽い怪我がもう跡形もなく何事も無かったかのように治っていたんですよ。
それに朝食のサンドウィッチ掴む手がいつも震えているのに今日はそこまで震えていなかった。
そして、何より美味しかったんです。何年も味なんてほとんど分からなかったのに今日だけは、少しだけ…されど少し美味しく感じられたんです。」
話す声がどんどん大きくなるがそんなことが気にならないくらい今の僕気にしない、いや気にしてなどいられない。
「先生これも『CELL』が身体に入ったからなんですよね?」
「おそらくそうだ。お前の身体が何か『CELL』によって影響を及ぼされたんだろう。」
「嬉しかったんですよ、先生。身体が元に戻ったようで…でも足りないんです。まだ、体は震えているし、味覚もまだまだ全て戻ったとは言えない。
もしも…もしもですよ、世界中に散らばった『CELL』を全て集めたなら。
味覚も、この快楽で狂ってしまった頭も、この濁った右目も、そして…このあと1年しか生きられない体も完全に元の状態にもどすことが出来るんじゃないんですか?!
だから先生は『CELL』を集める戦いを『希望』と言ったんじゃないんですか?!」
傍から見たら僕は狂人のように興奮していたのだろう。でもそんなことがどうでもいいくらいの希望を今僕は見出している。
「どうなんですか?先生!」
「あぁ…おそらくは可能だろう。」
僕の威勢に気圧されず先生は淡々と冷静に答えた。「だが、あくまでそれは『可能性』があるということ。私は『CELL』にまつわる戦いの話は知っていても、それがどのような結果をもたらすのかはわからない。もしかしたらお前の言うようなことは出来ないかもしれない。そもそもお前が最後まで生き残れる確率は非常に小さい。
わかるか?だから私は、たとえ1年でも、希望がなくても静かに暮らせる安寧を選択肢として示している。
……よく考えろ。戦いに身を投じたのならもう二度と後戻りはできない。それは運命として決まってしまう。それならば安寧を選ぶというのも賢い選択ではないか?」
先生のいうことは正しいのだろう、僕は魔法を奪い合うということは相手はもちろん魔術師だろう。僕は魔術は使えても魔術師と戦ったことはないし、そもそも誰かと命をかけて戦ったこともない。普通ならそんなこと誰もしないのだろう。でも…
「『希望』を選びますよ、先生。」
僕には失って困るものなんて何もない。親も兄弟もいるかどうかさえわからない。命も未来もない。
だから、少しでも希望があるのならそれだけは失いたくない。
「即答か…いいだろう。お前がそういうのなら私は出来るとこらろまで全力でサポートしよう。」
まるで先生はわかっていたかのように少しだけだが笑みを浮かべていた。
「では、アーリ。戦いには武器が必要だ。今からそれを買いに行くぞ。」
椅子から立ち上がり初老の男はそう宣言する。
かくして僕 アルカニオ・パラ・ド・プラチナは希望を手にしたのだった。
しかし、この時の僕の覚悟というの甘かったと今にして思う。
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