序章 受胎躍動

1話 卵 始まり

「アーリ、私は街に食材を買ってくる。私が街に行ってる間に外に行ってもいいがあまり家から離れすぎては行けないよ。」

「はい…分かりました、先生。」

アーリとは僕のあだ名だ。1週間に1度先生は朝食の後、街に買い物に行って夕方迄帰ってこない。

「いい子だ。行ってくるよアーリ。」

そういうと先生は外に止めてある自動車に乗ってエンジンをかける。

エンジンがかかる音と自動車が地面を走る振動が伝わってくる。

僕は車に興味無いから詳しくは無いけど先生が乗ってる車は80年代に作られたプレミアがつくものらしい。

自動車の音が完全に聞こえなくなった後、僕はリビングにおいてある。この前買ってもらったばかりのスケッチブックと鉛筆セットを持って家を出た。


先生の家の周りは森だ。というより森の中に先生の家がある。

前に読んだ、田舎に住む女の子と都会に住む男の子が入れ替わる小説によるとこういう自然に囲まれた場所に住んでいる思春期の子は街や都会に憧れるものらしいが、僕には全くそういう思いはない。

先生は僕をこの2年間一度も街に連れて行ってくれたことは無い。それに不満もないし、僕自身も街に行きたくないわけだが…

2年前までぼくは街に住んでいたが先生に引き取られてこの森に来た。

ここはいい、やかましい人工的な音はほとんど聞こえないし、風はやさしくおだやかですごしやすい。

木々の間をぬい、転びそうになりながら下り坂を進んでいくと川が目の前に現れる。

僕はほとりに座り川とその周辺の木々やその向こうに見えるロッキー山脈の美しい風景をスケッチブックに描き始める。

川のせせらぎも風の音も鳥の鳴き声も全てが心地いい。

薬物の過剰使用でおかしくなった僕の頭でもまだこんな感性が残っているのだと少し嬉しくなった。

2年前から薬物をたつようになってからというもの僕は本や絵を描くことで生活に充実感を得ようとした。しかし、それも無駄だったどのような刺激もあの薬から得られる幸福感に比べるとカスのように感じられてしまい、どうでもよくなっていった。

それでもこういうふうに絵を描いたり、本を読んだりするのは単に自分の余命のことを忘れたいからだろう。

後遺症で微妙に震える手を抑えつつ何とか風景画を描き続けるがやはり今日もうまくかくことはできなかった。


そうしているうちに時刻は13時をすぎたのを持ってきた懐中時計で確認して、家に戻ることにした。

不安定な道ともいえはい道を登っていくと鳥の鳴き声が聞こえた。


昔、鳥になりたかった様な気がする。地上の道に沿うこともなく、ただ自由になんの障壁もない空を飛ぶ事ができる鳥たちを羨ましいと思っていたのかもしれない。


「痛っ…」

そんなことを考えていたら手に痛みが走る。今木の幹に触った時に木の破片が指に刺さったらしい。

そこから赤黒い血液が少しづつ流れ出す

「深く刺さってるなこれ。」

家には絆創膏があったはずだと思い、急いで帰った。

それから少しして家の玄関の前に着いた時に木箱が家の前に置いてあることに気づいた。

なんだろうと思いつつ木箱をリビングのとこはまで運び、それをテーブルの上においた。

木箱は黒塗り縦20cm 横30cm 高さ20cm程の大きさで上には蓋がかぶせてあった。

僕はその木箱の蓋を開いた。


今にして思えば奇妙なことだった。

なぜあの時、僕は得体の知れない木箱を家に入れようと思ったのか、なぜ蓋を開けたのか。

でもそうしなければならない、そう思わずにはいられなかった。


木箱の蓋を開いて最初に目に入ったのは白い緩衝材そして何か黒い球状のもの。

球はすっぽりと手におさまるくらいの大きさだったを

黒い球は緩衝材の上に10個詰められていた。

僕はそのうちのひとつを手に取った。

それは柔らかかったが弾力があり割れることは無く魚卵のようにも見えた。

「動いているのかこれは?」

触ってみるとわかった。この玉は脈をうっているよに震えていた。普通ならこれを不気味がって捨てるのだと思うが、僕は違った。

何故かその黒い玉に強く魅了されたのだ。

じっとその玉を見つめていると、いきなり玉は僕の左腕にくい込んできた。

「なっ、なんだ。?」

玉はどんどん僕の左腕に食い込む。

玉を腕からはなそうとしても、それ以上の圧倒的な力で玉は僕の腕に食い込む。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁァ。」

絶叫してる間もそれはおかまいなしに腕に入ろうとする。

「もっ…もしかして、僕の腕に入ろうとしているのか?寄生虫みたいに……でもこんな生き物がいるのか?」

薬で壊れている頭を回転させ考え続けるが答えは出ない。

「まずい、この玉の力がどんどん強くなっている!!。」

床に膝まづいて玉をはなそうと力を加えるが、次の瞬間木箱から他の9個の黒い玉が這い出し1つ目のたまと同じように僕の左腕にくい込んできた。

「クソっ…なんなんなだよこの玉はァァ!」

そう叫びながら僕は次の瞬間床に倒れ込む。

最後に見たのは、さっき森で怪我した時の左手の傷だった。

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