第18話




 夢を見た。

 

 まだ小さい女の子と男の子が鏡を通じて喋り合う夢。

 女の子の顔は後ろを向かれていたから分からない。

 動こうとしても、なぜか動けずに、わたしはただその光景をただ眺めていることしかできなかった。



「琴葉。琴葉。今日は久しぶりに温かい食事が届いたんだ。お母様も喜んで召し上がられていたよ」




 男の子が嬉しそうに女の子に話し掛ける。まだ甲高い天佑の声。琴葉、と呼ばれた女の子が相槌を打つ。


(琴葉、って……)


 ドキリ、と心臓が跳ねる。

 ーー本者の琴葉がこの場に居るのだ。

 息を呑んで、女の子を見つめる。



(ああ。振り返ってくれたら、『琴葉』が、わたしかどうか分かるのに……!)


 夢の中の出来事だ。

 当てにはならない。そう思いながらも、それでも目の前にいる彼女こそが『琴葉』なのだと直感した。


(振り向いて欲しい)


 けれど、事実を知るのは怖い。

 相反した願いがせめぎ合う。

 女の子は背中までの黒髪で、なんの特徴もなかった。だからこそ、顔を見なければ、判別が付かない。

 焦燥からか手のひらには汗が溜まっていく。そして、どれほど凝視しても女の子の顔は天佑の方へ向けられたまま……二人だけの世界が構築されていた。



(動くことができたら確かめられるのに!)


 痛切にそう願ったその時。

 ゆっくりと女の子がこちらへと振り向く。

 けれど、女の子の顔は逆光で確認することができなかった。



(どうして……!)


 もどかしさに顔を歪める。

 天佑の望む『琴葉』が居る。

 なのにわたしは彼女が誰であるかすらも、確かめられない。

 ただ金縛りにあったように、棒立ちのまま。手を伸ばすこともできなかった。



「お姉ちゃん」


 不意に、女の子がわたしをそう呼んだ。

 喋ろうにも、わたしは口が開けなかった。ただ、女の子だけが語り始める。


「盗み見て、答えを知ったところで、それはズルだよ。お姉ちゃんが本当に『答え』を知りたいのなら、ちゃんと自分で行動しなきゃいけない。ちゃんと自分の目で真実に辿り着かなきゃいけない」


 そうだ。その通りだ。

 わたしは何を甘えていたのか。

 頬に一筋の涙が溢れる。自分の愚かさ。そして弱さを突きつけられたような気がして、じくじくと胸が痛む。



「大丈夫。。真実から目を逸らさない限り、きっとハッピーエンドの道が開いているから」



 あとはお姉ちゃん次第だよ、と女の子が続ける。

 それに対するわたしの答えは……。




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