第32話 クリスマスイブ①

「……ありがとう美月。俺は今のままでいいとは思ってない。一度話してみるよ」


 あの日、美月にああ言って、クリスマス当日。今日はカラオケで友達と集まる予定があったがその前に俺は「福原家」を訪れていた。


 しかし、インターフォンを鳴らし、使用人が出てくれたが、父親は俺に帰ってほしいと伝言が。なら父親の父である祖父にと思ったがこちらも面会したくないそう。


 祖父には嫌われている自覚がある。小さい頃、これはこうしなさい、あれはこうしなさいとうるさくて俺は反抗した。自由にやりたいと。


(わがままだってわかってるけど、祖父は願望を押し付けてくるようで嫌なんだよなぁ)


 だからバイトをしていることもバスケを続けていることも祖父には隠している。バレたらきっとやめさせられるから。


 祖父は必要ないことはバッサリと切り捨てるタイプで取捨選択が悪い意味で凄い。


 今日は色々決意して来たんだが、会えないなら帰るしかない。


 カラオケに集合までまだ少し時間があるので、今日のクリスマスパーティーで食べる時用のお菓子や摘まめるものをスーパーへ買いに行くことにした。


 予約しているカラオケは食の持ち込み可で、皆、好きな食べ物やジュースを持ってくることになっている。


 みんなで分けるならたくさん入っているパックのお菓子とか、食べ物ならポテトとかがいいよな。


 スーパーに入り、カゴを手に持ちながらそんなことを考えているとジャンクフードが並ぶコーナーに見覚えのある人を見かけた。


 ゆったりめのツインテールに黒のリボン。上はコートを着ており、下は紺色のロングスカート。


 いつもと雰囲気が違い、一瞬誰かと思ったが、あの後ろ姿は心愛だ。


「心愛」


 後ろから名前を呼ぶと彼女は後ろをゆっくりと振り返った。


「あっ、奏翔くん。もしかしてクリスマスパーティーのための買い出し?」

「うん。もしかして心愛も?」

「うん、何がいいかなって。被らないよう一緒に選ばない?」

「いいよ、俺も同じこと提案しようとしてたから」


 同じことを思っていたので、俺と心愛で食べ物を選ぶことになった。


 皆同じものを選んでピザが8枚とかになったら凄いことになるからな。


「美月ちゃんは一緒にいないの?」

「美月?」


 なぜここで美月の名前が出てくるのだろうかと思っていると心愛は口を開いた。


「いつも一緒にいるイメージがあるから」

「……あぁ、そういうこと。美月とは現地集合だから一緒に行く約束はしてないよ」

「そうなんだ」

 

 中学からのイメージは変わっていないのか。今もよく一緒にいるからかもしれないけど。


「ピザどれがいいかな?」

「何種類か入ってるやつがいいんじゃないかな」

「うん、それいいね」


 相談しながらカゴへ入れていき、お会計は割り勘で。重たいものは俺が持ち、軽めのものは心愛に持ってもらった。


 買い物をしているとちょうどいい時間になったのでそのままカラオケへ向かうことに。


「そういや、今日、何か雰囲気違うよな。ツインテール似合ってる」


 思ったことをそのまま伝えると心愛は驚いた表情をして顔と耳を真っ赤にさせた。


「あ、ありがとう……今日はちょっとオシャレしたくて。変じゃなくて良かったよ」

 

 ホッとすると心愛は柔らかい表情で小さく微笑んだ。そして、辺りを見回すと彼女は俺の方を見た。


「この商店街、小さい頃と変わったね」

「……確かに。ここ、駄菓子屋だった気がする」

「うんうん。私達が住む近くには駄菓子屋ってものがなかったからここまで来たっけ」


 心愛とは小学校の頃までよく一緒に遊んでいた。中学からは会ったら話す程度で遊ぶことはなくなった。


(思い出すと懐かしいな……)


「そう言えば、奏翔くんはクリスマスどう過ごすの?」

「クリスマスは水族館に行く予定だよ」

「水族館、美月ちゃんだね」

「美月から聞いたの?」

「ううん、一緒にってなると1番に思い付くのが美月ちゃんだから」

「そ、そうなんだ……心愛はどう過ごすの?」


 彼女に尋ねると心愛は嬉しそうに笑った。


「私はお母さんに会いに行こうかなって」


 心愛のお母さんは2年前から病院に入院している。だから俺の家と一緒で2人で暮らしている。


「そうなんだ。お母さん、早く良くなるといいね」

「うん……良くなってるとは聞いてるからきっと大丈夫」


 そう言って、心愛は暗い顔をしていた。大丈夫だとわかっていても不安なのはわかる。俺も自分の母親が入院していつ退院できるのかわからなかったら不安になるだろう。    


「あれ、美月ちゃん?」


 カラオケの前まで来ると店の前で寒い中立っている美月の姿を心愛は見つけた。


 美月も今日は何だか雰囲気が違った。今日も白のベレー帽を被っているが、髪がふわふわでおそらく巻いているのだろう。


「心愛と奏翔くん。1人じゃ入りにくくて誰か来るの待ってたの」

「寒くなかった? 中で待ってたら良かったのに」

「さっき来たばかりだから大したことない。心配してくれてありがとう、奏翔くん」


 ここで話すのもあれなので、美月も一緒にカラオケへと入る。杏からはまだメッセージが来ていないので、受付近くにある椅子に座って皆が来るのを待った。


「美月ちゃんは何か持ってきた?」

「うん、手作りクッキーを持ってきたよ」

「手作り、凄いね。私、作ったことあるけど上手くいかなったんだよね」

「そうなんだ。クッキーを作るコツはね」


 美月と心愛が楽しそうに話してる中、会話には入れず俺は聞き手に回っていた。すると誰かが俺の隣に座ってきたので横を向くといつの間にか来ていた杏がいた。


「あっ───」

「しっ! 2人には内緒で太もも見れるチャンスなんだから。ほらほら、チャンスだよ」


 人差し指を口元に当てて、ペチペチと太ももをアピールしてくる杏に俺は即答する。


「そんなチャンスいらないけど」

「あれ、太ももフェチって聞いたんだけど」

「言った覚えがない。というか今日も寒そうな服だな。真冬だぞ」

「わかってないなぁ~、太ももを見せないでどうすんのよ」

「しらんわ」


 太ももをアピールしたいのか杏はゼロ距離で俺の隣に座ってくる。


 真冬に短めのズボンは凄すぎる。俺の場合、「わぁ、太ももだぁ」より「風邪引くぞ」と心配の方が大きい。


 杏と会話していると声量がだんだん大きくなっていき、美月と心愛は杏が来たことに気付いた。


「あっ、杏ちゃん」

「やほやほ、こあこあと神楽ちゃん」


 杏はイスから立ち上がると女子2人の方へ行き、座り直す。すると、そのタイミングで大智と陽菜が来た。来るなり、陽菜はボソッと呟いた。


「女子ばかりで奏翔が浮いてるように見える」

「だろうな」

「話し相手がいないならこの陽菜ちゃんが話し相手になってあげよう。大智もね」

「おう、寂しそうだしな」

「別に寂しいとは思ってないが?」


 といいつつもいつもよくいる陽菜と大智が来てくれて一緒にいて安心感があった。


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