第33話 クリスマスイブ②

「すみません、お待たせしました」

「ごめん、待たせた」


 雪城さんと羽田が来て、全員集合すると受付へ行き、指定されたカラオケルームと向かった。


 部屋は少し高さがある小さなステージ付きで10人ほど入れるところだ。


 久しぶりにカラオケに来たが、クリスマスパーティーするにはピッタリな場所かもしれない。


「じゃ、さっそく歌いますか!」

「わっ、ひなっち、わかってる~」


 クリスマスパーティーがメインのはずが、陽菜と杏はカラオケルームに入るなり、曲を入れる器械に曲名を入力し始める。


 杏と陽菜は同じクラスではないがSNSで繋がっているそうだ。俺はSNSに疎いので何もわからないが最近はそういうので知り合うことができるらしい。


 持ってきたものをテーブルに出そうとしていると誰かに服をクイクイと引っ張られ、後ろを振り向くとそこには美月がいた。


「奏翔、飲み物行こ」

「あっ、うん。行こっか」


 持ってきたものを出すのは後にし、近くにいた心愛に伝えてから俺と美月はドリンクバーへと向かう。


 2台あったが、1台は人が使っていたので空いている方へ行き、先に美月にグラスに飲み物を入れてもらい、俺は後ろに並ぶ。


 入れ終えると場所を交代し、俺はグラスにオレンジジュースを入れると美月は隣へ並んだ。


「心愛と一緒に来る約束してたの?」

「えっ、いや、偶然会って一緒に来ただけだよ。もしかして美月、しっ───」

「聞いただけ。嫉妬なんてしてないから」

「遮られて何も言ってないけど」


 飲み物を入れ終え、皆の元へ戻ると心愛と雪城さんがテーブルに食べ物や紙皿を並べてくれていた。


 俺もと思い、買ってきたものをテーブルに並べた後、用意している雪城さんに声をかけた。


「雪城さん、手伝うよ」

「あら、ありがとうございます。では、割り箸をお願いします」


 雪城さんに手渡された、割り箸を皆が座るところに並べる。


「じゃ、次は神楽っち! 一緒に歌おっか」

「う、うん!」


 ステージの方からは楽しそうな声が聞こえてきた。映画の日から一件、美月と杏は仲良くなったような気がする。


 割り箸を配り終えると雪城さんの元へ行き、配ったことを伝えた。


「ありがとうございます。皆さん、歌っていて食べるのは後になりそうなので、福原くん、少しだけお話ししませんか? あなたにお聞きしたいことがあります」


「話?」 


 断る理由も見つからないので雪城さんと端の方へ座り、話すことになった。


「お聞きしたいことですが、中学の時、杏はどんな方でしたか?」


 どんなことを聞きたいのだろうかと予想がつかなかったが、雪城さんは杏の中学時代のことが知りたいそうだ。


 今とあまり変わらない気がするが、彼女は高校生になってから変わった気がする。


「今と変わらないけど言いたいことをズバッと言うタイプで、常に誰かといたかな」


「そうですか。今と変わりませんね」


 クスッと雪城さんは笑うと先程まで歌っていた杏がこちらへ来て、彼女の腕に抱きついた。


「あっれ~、志帆とかなっちって仲良かったっけ? 知らぬまにそういう関係?」

「ふふっ、お友達ですよ。そうですよね、福原奏翔くん」

「……う、うん」


 そう言ってくださいという圧が凄い。名前を呼ばれてゾッとしたのは初めてかもしれない。


「ふ~ん。あっ、かなっちと志帆。メリークリスマス。手作りチョコだよ」


 杏は先に雪城さんに渡し、そして俺に渡した。手作りチョコと聞いてラッピングされた袋から取り出すと杏は俺と雪城さんの間に座ってきた。


「杏がチョコを作れるとは知りませんでした。作れたんですね」

「あ~志帆っちヒドイ。こう見えてお菓子作りは得意だよ」

「別に作れなさそうとは思っていませんよ。チョコ、ありがとうございます」

「ありがと、杏」


 お礼を言うと杏はスマホを取り出し、手を伸ばした。


「いいってことよ。じゃ、3人で1枚」


 杏はスマホで写真を撮ろうとしていたので俺は慌ててカメラの方を見る。


「ん、いい感じ。後で送っとくね」

「ありがとうございます」


 雪城さんはお礼を言うとイスから立ち上がり、部屋から出た。杏と2人っきりになると彼女は近くで飲み物を飲んで歌う美月と陽菜を見ていた心愛の肩をトントンと叩いた。


「こあこあも一緒に撮ろうよ」

「えっ、あっ、写真? いいよ」

「じゃ、かなっちの隣ね」

「う、うん」


 先程のように3人で撮ると思ったが、杏は向かい側のイスに座り、俺と心愛のツーショットを撮ろうとする。


(杏も入るかと思ったんだが……)


「はーい、撮るよ~。こあこあ、もうちょい寄れる? 距離遠いと仲悪そうに見えるから」

「わ、わかった……」


 心愛は俺の方へより腕が触れ合うぐらいに近づき、チラッとこちらを見て、顔を赤くした。


「ち、近すぎるかな……」

「ん……どうだろう。この距離なら不自然じゃないしいいんじゃないかな……」


 彼女の反応を見てしまったせいか動揺して上手く話せない。


「じゃ、いくよー」


 杏に撮ってもらい、送ってもらった写真をスマホで見る。すると、心愛は画面を覗き込んできた。


 隣を見ると心愛と目が合い、彼女は耳に髪をかけて、ふんわりとした笑みを浮かべた。


「2人で写真なんていつぶりだろうね。この前、小学生の時のアルバム見返してたんだけど、私と奏翔くん、結構一緒に写ってて。高校生になってからは初めてだね」


 スマホの画面に映る写真を心愛は、嬉しそうに見る。


 どうも彼女に好きであると告白されてから心愛との距離の取り方に困っている。今までと同じように幼馴染みとして接したいが、それが難しい。しようとすると今までどう接していたのかわからなくなる。


 そんな俺を見ていた心愛は何に困っているのか全て見透かしていた。


「私、奏翔くんの恋、応援してるから。自分の気持ちを捨てるわけじゃない、私がそうしたいの。だから困っていること、悩んでいることがあれば言ってほしいな。私はいつでも力になるから」

 

 そう言って心愛は俺の手を取り、両手を優しくぎゅっと握った。


(困っていること、悩んでること……か)


 今朝あった出来事を思い出す。今朝のようにまた家に行っても帰る未来しか見えない。


「ありがとう心愛」


 恋愛より先に俺は家のことをどうかしなければならない。お父さんと話すと決めたのだから。

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